Side−S


雅紀が『ヤツ』の二回目の公判に行くことをヒロキさんから聞いたらしく、「僕の『お父さん』のことが何か聞けるかも知れないから、僕も連れて行って欲しい」と頼まれ、オレは「駄目だ」とは言えなかった。


その事を潤にぃに話したら、「まぁが傍聴席で大人しくいられるか、分からないんだよな?」と言ってくれて、潤にぃも一緒に傍聴席で公判を見届けてくれることになった。



傍聴席には前回の公判に来ていたあの新聞記者達とは別に、他にも報道関係者らしい人達が来ていて、この公判に関心があるんだな、くらいにしか思っていなかった。



前回の公判で、『ヤツ』が『北見モータース』に居た頃、事故の隠蔽工作をしていたことは、証言が取れず証拠品も無いことから、証拠不十分で不起訴になった。



『ヤツ』がオレの車のブレーキを細工したことも、きっと『櫻井の父』が有耶無耶にしてるんだろうな…。オレが此処に来ていることは内緒にしているから、お互いさまだよな。



『オレに事故の隠蔽工作をしろって言ったのは●●商事の△△だ!』


突然、ヤツが叫んだ。実名を暴露したところで、どうせ揉み消されてしまうのに…



『…聞いたか?今の…』

『これ、どうする?載せるか?』

『いや…記事にしたら、ウチの社は即、潰されますよ。』



報道関係者達が、騒然となった。


『静粛に!休廷します!』


裁判官が宣言して、その場を収めるために一時休廷になった。



30分後。公判が再開されたが、被告人の『ヤツ』は隠蔽工作が不起訴処分になったのがどうにも納得いかない様子で、弁護士が『もう、何も喋るな』と制止していた。


確かに、立件されれば『ヤツ』だけでなく、知名度の高い依頼人も罰せられる。恐らく『ヤツ』の狙いはそれだったんだろうが、検察側が証拠不十分で不起訴だと言ったことを、今更翻すようなことはしないだろう。



「『お父さん』は…」


…雅紀?


「『相葉誠司』は、隠蔽工作に加担していましたか?」

「雅紀…なにを言って…」


「教えてください!『相葉誠司』は…」


法廷内が再びざわつき、その日は閉廷になってしまった。





…つづく。