もう一つの物語り【愛 染】 284 | シンイLove♥魅惑の高麗ライフ

シンイLove♥魅惑の高麗ライフ

あくまでも管理人の妄想の世界です。
ご了承の上お読みくださいませ。

 
 
 
 
「随分と景色が違うのだな」
 
助手席の車窓から外を見ていたヨンが呟いた
 
「ここらへんは田舎だから…
先に両親の所へ行くわね、明るいうちに行きたいの」
 
「ああ、それで良い」
 
時間は午後3時を過ぎていた
朝からスタジオに寄った事で
車の少ない時間帯を走ってこれた
それから10分程で納骨堂の駐車場へ付いた
コンクリートの建物の裏手は山になっており
生垣の寒椿の赤い花が目を引き
花壇の金盞花が盛りを迎えていた
車を降りてヨンは辺りを見回す
 
「墓は何処にあるのだ…」
 
「お墓はないの…私一人じゃ買えなくて
それに、私高麗に行くことになったから…
考えてみたらこれで良かったのよ、さあ行きましょう」
 
今朝ばあやに預かった箱を抱えウンスの後を追うヨン
大きな白い部屋の中に無数の箱がある
それぞれの箱の中には小さな壷のような物と
花や写真が入れられている
ウンスはその部屋の奥にある大きな箱の前に立っていた
 
その列の箱は他の箱寄りも大きい造りになっている
そこには白い壷が二つ並んで入っていた
その壷の隣には笑顔の男女の写真
義父であろう人の顔は本当にチォウンと瓜ふたつだった
高麗でチォウンが見せてくれた写真のその人だった
義母の照れた笑顔がウンスと良く似ている
ウンスはその壷を部屋の真ん中にある献花台に運んだ
ばあやが準備してくれたお供え物を並べ
ミンに貰った写真を置くと
その前に跪いてお辞儀をした
ヨンもウンスの隣で妻の両親にお辞儀をする
長いお辞儀を終え立ち上がると
 
「お父さん、お母さん…暫く来れなくてごめんね
私…結婚したの今日は旦那様と一緒に来たのよ
とても素敵な人なの、この人に一生ついて行くわ
チェ・ヨンさんって言うの、宜しくね」
 
そう言うと隣のヨンを見る
 
「某チェ・ヨンと申します、此度、御息女ユ・ウンス殿と
夫婦の契りを交わしましてございます
生涯かけて大切に護り通す所存
義父上、義母上には何卒御見守り頂きたく
心よりお願い申し上げまする」
 
ヨンの挨拶が終わると何故か
周辺が少し暖かくなった気がした
空調のせいか、二人の緊張のせいか良くわからなかったが
ウンスにはその暖かさが、幼い頃の母の胸の温もり
父に背負ってもらった時のその背中の温もりに感じられた
 
「きっと許してくれたのよ、喜んでくれたんだわ」
 
そう言いながら涙が溢れて仕方なかった
ヨンはそんなウンスをただ黙って抱きしめていた
ここでヨンは一つの決心をするが
それはヨン一人の胸の中に押し留めた
暫くして落ち着いたウンスは骨壷をロッカーに戻し
骨壷の後ろに今日のウェディングフォトも置いた
 
「これで、いつでも一緒よ
また来るねって約束出来ないけど…元気で頑張るから」
 
そう言うと敢えて振り返らずに出て行くウンス
ヨンはもう一度両親の写真を見つめ
何故かスマホで写真をパチリその後
丁寧に一礼するとウンスの後を追った
 
「ウンス、少し歩かぬか」
 
少し落ち気味のウンスの肩を抱きヨンが言う
 
「そうね、夕焼けが綺麗だし
少し下ると綺麗な池があるのよ」
 
二人は花壇の花を眺めながら池の周辺を歩き
納骨堂を後にした、納骨堂からウンスの実家までは
車で30分程だったが、途中早めの夕食を取り
滞在中の食料を調達して実家に帰り着いた時には
既に夜になっていた
車のヘッドライトに照らされた実家
両親の事故後ここへは一度戻っただけだった
高麗ヘ迷い込みチォウンとこちらへ戻った時も
何故か立ち寄ることができなかった
ここに来れば両親を感じられるが
それは胸の痛みを伴う事だったから…