もう一つの物語り【愛 染】 285 | シンイLove♥魅惑の高麗ライフ

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あくまでも管理人の妄想の世界です。
ご了承の上お読みくださいませ。

 
 
 
 
静かに母屋の鍵を開ける
重い引き戸をゆっくり開けて電気のスイッチを入れる
幸いにして電気も止まってはいない
玄関を上がり居間へと移動する
ここも最後に来たあの時と変わってはいない
だが家具はそのままに中身はすべて撤去されている
台所、両親の部屋、客間にウンスの部屋がある離れ
何も変わってはいない…だが
家も家具もそのままなのに中身がないのだ
 
「まるで食べ終わったキャラメルの箱だわ…」
 
「家の物はどうしたのだ」
 
「事故の後にここを片付けに来た時に処分したの
売れるものは売って、捨てる物は捨てたの
どうしても捨てられない物は…ソウルにあるわ…」
 
「早まったのではないのか…」
 
そう問いかけるヨンにウンスは寂しい笑顔を向ける
 
「そうね…でもここはララに売っちゃったし
片付けておいて良かったのよ
ここにまだ物があった時、居るのが辛かった
あちこちから両親の声が聞こえるようで
溢れるほどの思い出が家中に詰まっていて
居るだけで気が狂いそうだった」
 
最後は少し震える声で呟くように話すウンス
ヨンはただ抱きしめることしか出来ない
その広い胸にウンスを囲い込み
 
「ウンス…俺がいる、だからもう大丈夫だ
ここに何があろうが無かろうが、過ごした時は消えぬ
ウンスと義父上、義母上が過ごした時はその胸に残る
物はいつか朽ちる…だが、思いは消えぬ
 
胸の中でウンスが何度も頷くのがわかった
それから再び家の中を巡る…するとウンスが
 
「やだ…布団の一枚も残してないわ、どうしよう」
 
「近くに泊まれる所はあるか」
 
ウンスは少し戸惑いがちに
 
「街に行けばあるけど…でもあまり泊まりたくないの
知り合いにも会いたくない…」
 
ウンスの両親がバス事故で亡くなったことは皆知っている
狭い街だうわさなどほんのひと時で広まる
後処理に戻った時も、哀れむような視線が痛くて
いたたまれなかったのだっだ
それをヨンに伝えた
 
「では街を出るか?運転できるか」
 
「ええ、大丈夫…運転できるわ
もうここは必要ない…私にはあなたが居てくれる」
 
しっかり鍵を閉めると、鍵から大切なキーホルダーを外した
それを上着のポケットヘ、鍵はバックの中へとしまった
車に乗り込みエンジンをスタートさせる
街を素通りし幹線道路に出て暫く走ると
キャンプ場の案内が見えてくる
そこはウンスが小学生の時林間学校に行った所だ
あのキーホルダーを母のお土産に作った場所
ウンスはウィンカーを左に出すとキャンプ場へ向かった
昔と違い綺麗に整備され、バンガローが数棟立っている
 
「ここに泊まらない?」
 
唐突にウンスに言われ多少驚くが頷くヨン
 
「ちょっと待っててね」
 
ウンスはそう言うと受付に向う
そう言われて黙って座っているはずがないヨン
迷うことなくウンスの後ろをついていく
 
「おじさん、今夜泊まれる?一晩でいいの
主人と二人なの
ソウルに戻る途中なんだけど疲れちゃって」
 
受付のカウンターの奥で終い作業中の
おじさん?お爺さん?が
 
「この季節は滅多に客もないのに…
別に泊まるのは構わんが」
 
そう言いながらも二人をジロジロと見る
 
「ここは普通のキャンプ場だけど、わかってる?」
 
ウンスがキョトンしていると
 
「ああ良いよ、気にしないで
真面目なお客さんのようだから泊まって行きなさい」
 
ここでウンスはお爺さんの言った意味を理解すると
 
「やだお爺さんったら…」
 
そう言って頬を赤らめた
 
「だが時々けしからん奴が居てな
あれこれ持って来いと勘違いな注文をしおる…
料金は前払い、悪いが予約無しなんで食べ物はないよ
シャワーも使えない、チェックアウトは10時だ」
 
ウンスは料金を支払うと、指定のバンガローの
鍵を受け取った