トマト戦争 | My life is too absurd to be taken seriously.

トマト戦争

特別な今宵のディナーの為に、良いトマトを探している。
甘くて、新鮮で、カプレーゼに最適の真っ赤なトマトを。

昨夜、近所のコンビニで購入したものの品質に不安がある。
何だか小ぶりで不格好なうえに、青味がかっているのだ。
仕事中に会社近くのスーパーで良さそうなトマトがあった。
コンビニよりも赤みがあり美味しそうに見えたので購入。
昨夜入手したものは、ご近所の妹にあげることにしよう。
トマトを抱えて帰社すると、同僚女子にどうしたのかと聞かれる。
いや、実はこれこれこうで美味しいトマトを手に入れたかったと話す。
すると、同僚女子は貴方の自宅の近くに築地市場があるからそこへ行った方がよっぽど良いものが手に入ったのではと言う。
いやはや、何故気が付かなかったのか。
スーパーのトマトを同僚にあげて、帰宅がてら築地市場へ。
なるほど、青果店にはまだ毛が生えていそうなほど新鮮で真っ赤な大ぶりのトマトがあった。
手に取ってみるとずっしりと重く、その感覚は私に幸福感を与えた。
カプレーゼをフォークで頬張りながら、美味しいねと微笑みあう食卓まで想像した。
これは探し求めた甲斐があったと、ウキウキしながらトマトを手に帰路へ。

ふと帰り際に千疋屋が目に入った。
その店頭を見て、私は我が目を疑った。
そこには、思いがけずトマトが鎮座していた。
しかもそのトマトは一目で格式を感じさせる神々しい光を放っていた。
さっきまで私に幸福感を与えていた築地トマトが、急に重たげな存在に感じて泣きたくなった。
あんなに探し回ってあんなに美味しそうで、今宵のディナーが素晴らしいものになると信じていたのに。
それでも店頭でたたずむそれの完璧なフォルム、申し分のない大きさ、フルーツの様な輝くルビー色のトマトは紛れもなくダントツで美しかった。
比べちゃいけないが、皿の上でモッツァレラチーズを脇役に押しのける女王然としたトマトの姿が目に浮かんだ。
そのトマトをうやうやしく口に入れ、舌と鼻腔に広がる甘さに思わず光悦の表情が浮かび、一瞬にしてエロティックな空気漂う食卓を思い浮かべた。

私はこの千疋トマトを諦められない。
何で出逢ってしまったのか。
たったつい数分前まで私の足取りを軽くさせた築地トマトに罪悪感を感じた。
しかし、その気持ちも千疋トマトを購入した時には消えていた。
築地トマトは明日会う予定の女友達にあげれば良い。
そう思って、私は千疋屋トマトから香り立つ高貴な匂いにうっとりとした。

・・・というストーリーのトマトの部分を男に変えたのが、私の恋愛傾向だ。
本命の彼を見つけるまで、いつもこのトマト戦争を繰り広げているのは如何なものか。