世界の投資家が憧れる“ヘッジファンド界のスーパースター"、ジョージ・ソロス氏の有名な運用哲学に「再帰性理論」というものがある。

「市場は常にある方向に偏っている→誤った現象がその後の市場の再帰現象につながる」という考え方である。

決算発表が増えているここ最近の日本株市場。この時期、相場が悪いと「業績を確認することで見直し買いが広がる」やら「業績相場へ移行する」といったセルサイド目線の解説が出てくるのも業界の風物詩だ。



ただ、今年は株価のリアクションが(悪いほうで)激しすぎるためか、そうしたリスクを顧みない“逆張り猛推奨”の声が激減しているようでもある。



ほんと、なんかおかしい、今の日本株である。決算発表翌日の騰落率を列挙してみる。アルプス電気17.4%安、ソニー12.4%高、資生堂12.7%高、村田製作所15.6%高、アサヒグループホールディングス 7.5%安、野村ホールディングス10.2%安、パナソニック7.8%安……。

日本を代表するよう超大型株が1日で10%超も上がったり下がったりするといった日常があるのだ。



決算発表直後、急激に株価が動くのは今に始まったことではない。
ただ、超大型株が「そんな悪い(良い)決算ですか?」「織り込んできたじゃありませんか?」でこれだけ動くのはさすがに記憶にないようにも思われる。

すべてに当てはまるわけではないが、特徴としていえるのは、ストップ安(高)にならない程度で値幅制限をワイドに利用したような動き方をしていることか。

そして、急落(急騰)した銘柄は翌日の朝だけは、買い気配(急騰の場合は翌日売り気配)になるということくらいだろうか……。

今回の場合、下方修正などネガティブぎみの決算が多いことから、決算発表直後にものすごい下げ方をする銘柄のほうが多い(相場全般も「ベア」なので……)。

決算について「地雷だらけ」なんて表現も聞かれた。
そもそも、なぜそんなに下げるのだろうか?
 
そんなに決算銘柄を大量に持っている大口投資家がいて、決算を見て、それがさほど悪くなくても安いところからブン投げるものだろうか?
 
「なんだろう、これ?」と思うところはあるのである。


取引時間中に決算を発表する銘柄の場合、発表直後の安値(高値)をつけるまでにかかる時間が発表の数秒後、といった例もやたらと多い。

リリースも開かず、何が起きたかも読まず、業績数字という極めて定量的な情報だけでトレードしているとしか考えられない機敏な動きなのである。

そんなことを日本の個人投資家が世界の誰より先に行って、最初の売り手になることができるものだろうか? 

ましてや、決算の中身も確認しない定量分析だけで、日本の機関投資家が持ち株をマッハで売却したりするのだろうか? 

やはり、投機筋のカラ売りが最初の売り手としか考えられないのである。

その売りがすさまじいため、「これ悪いのか?」とか「もうこれ以上の損失は我慢できない」と思った個人投資家の信用買い持ち分の売りが誘発される格好で、前出のような超大型株のとんでもない変動率が実現しているのではないだろうか……。

これを具体的な数字で示すならば、たとえば、取引時間中にデンソー、豊田自動織機、トヨタ紡織、豊田合成といったトヨタ系自動車部品株の決算発表が相次いだ。

いずれも、決算発表直後にきつい下げとなった。
これらはすべて「輸送用機器」という業種に該当する。

同日の輸送用機器業種のカラ売り比率を確認すると48.15%だった(前日比で同比率は3.1ポイント上昇)。

つまり、当日の約定分の半分ほどがカラ売りによるものだったわけで、「決算直後の最初の売り手イコールカラ売り」と推測するのに十分な数値といえるだろう。


そんな無慈悲なカラ売りで株価崩壊の大型株が続出している。
トヨタ自動車の予想PERは9倍割れ、マツダとミネベアは7倍台、日立製作所のPBRは0.8倍台……

誰もがこんな値段で仕込みたかったと思っていたはずの水準まで下げた銘柄が続出している。
一方で、ニコンPERは31倍台、ローソンは28倍台、花王の25倍台など、こんなご時世で高プレミアムが付いている大型株との二極化も広がっている。

冒頭のジョージ・ソロス氏の再帰性理論が思い出されるような局面にある。
この動きはどこまで、いつまで続くのだろうか?

日本株というなんかおかしいものには、ジョージ・ソロスの運用哲学でさえ通じないのだろうか……。