■苦戦が続く吉野家
牛丼チェーン大手の吉野家が苦戦している。
4月の既存店売上高は前年同月比91.6%と、8.4%の大幅なマイナス。
吉野家は4月に4週連続で金・土曜日に牛丼並盛などが300円となる『春の300円まつり!』を大々的に展開したが、客数は前年同月比12.2%も減少するなど、不発に終わった格好である。
ただ、牛丼業界がすべて不振に喘いでいるかというとそうでもなく、“牛丼御三家”の残りの2社、すき家は4月の既存店売上高が前年同月比5.2%の増加、そして松屋は3%の伸びを記録していることからも、吉野家の“一人負け”の現状がクローズアップされている。
ここ1年間の月次売上推移を見ても、売り上げの伸び悩みは明らかである。
さて、“牛丼御三家”で唯一苦戦する吉野家。
もし、自分が吉野家の経営者であれば、どのような戦略で業績向上を目指すだろうか?
■出前館とタッグを組みデリバリーを開始した吉野家
吉野家が下した決断は、お客様に店舗に来てもらうのではなく、逆にお客様に牛丼を届けるデリバリー。
吉野家はデリバリーの注文を請け負う『出前館』と提携して、2017年3月から恵比寿駅前店で試験的にデリバリーを導入した。
その結果、予想を上回る売り上げアップにつながったことから、6月1日から東京と千葉の7店舗にまでエリアを拡大してデリバリーを行うことを決定した。
吉野家に限らず、外食産業にとってデリバリーは売り上げアップにつながる効果的なプレイス戦略ということができるだろう。
たとえば、マクドナルドも『マックデリバリー』と名付けた自前のデリバリーサービスを2010年12月から試験的に導入し、2017年6月6日現在では15都府県までエリアを拡大してきた。
今後、吉野家も『出前館』の拠点拡大に伴い、デリバリー店舗を拡大していくことが見込まれる。
■なぜ吉野家は『出前館』を利用することを選んだのか?
それでは、なぜ吉野家は自前でデリバリーを行わずに『出前館』にアウトソースすることを選択したのだろうか?
その答えはコストにある。
自社でデリバリーの仕組みを構築するためには、受注のためのチラシ作成や受注システム、デリバリーの人員確保など多大なコストを負担しなければならない。
デリバリーを導入すれば、売り上げアップにつながるのは当然だが、問題は売り上げアップとコストアップの関係である。
売り上げアップがコストアップを上回るなら、それは取りも直さず利益アップにつながるが、売り上げアップしてもそれ以上にコストアップすれば損失につながることになり、デリバリーの導入が却って業績不振の原因ともなりかねない。
たとえば、一注文当たり1500円、配達料300円を徴収しても、コストが商品の原材料費はもとより、デリバリーの広告代やシステム料、人件費などを合わせて2000円かかるようであれば、1回あたり、200円の損失が発生することにつながる。
もちろん、『出前館』にデリバリーをアウトソースする場合も、毎月のサイト掲載料3,000円に加えて、一定の受注代行手数料を支払わなければならない。
ただ、自社でデリバリーシステムを構築する場合と『出前館』に、デリバリーをアウトソース場合とを比較して、最終的に『出前館』にアウトソースした方が、コスト負担が低く利益アップにつながるという結論から提携に踏み切ったというわけだ。
また、『出前館』では2009年からTポイントと連携していて、6千万人を超えるTポイント会員にアプローチできるというメリットもあり、低コストで配達員を利用できる仕組みも提供されている。
『出前館』では吉野家のデリバリーを請け負うにあたって、新聞販売店と提携し、新聞の配達がない時間に新聞配達員が飲食店のデリバリーを行う『シェアリングデリバリーモデル』という新たな仕組みを導入している。
このモデルでは、『出前館』は配達員を確保できない飲食店に対しても、自社の受注システムを利用してもらえ、デリバリーを請け負う新聞販売店は空き時間を有効に使って売り上げアップにつなげられるシナジー効果がある。
また、利用する飲食店にとっては低コストでデリバリーというオプションを追加できるという、まさに三者三様のメリットがあるうまくできたビジネスモデルになっている。
■吉野家が『出前館』を利用する問題点は?
さて、『出前館』にデリバリーをアウトソースすることによって、吉野家は低コストで売り上げアップを図ることができるが、決してすべてがいいことばかりではないであろう。
やはり、注意すべき点も少なからず存在する。
それは、出前館のサービスは独自資源ではなく、効果があると業界に知れ渡ればライバル企業も容易に利用できるというポイントである。
効率的で効果の高いデリバリーサービスが“排他的”に利用できるならば、吉野家にとってデリバリーサービスは新たな武器と成り得るが、アウトソースでライバル企業も利用できるのなら、全く強みにはならずに長期的な競争優位を築くことはできない。
また、たとえデリバリーが売り上げアップに効果があるとわかっていても、エリアの拡大は自社の力ではどうにもならず『出前館』に委ねられるというポイントも制約条件になるといえるだろう。
いずれにしろ、7店舗では売り上げアップへの寄与もそう期待はできないことから、今回の戦略的提携は今後のデリバリー拡大への布石と思わる。
デリバリーの導入よって、吉野家が苦戦を脱出できるかどうかに注視が肝要である。
【結論】
1.売り上げアップのためには、顧客接点(顧客が商品を購入するチャネル)を増やすことが効果的-プレイス戦略
2.売り上げアップに効果的な方法が自社独自で導入することが難しければ専門業者にアウトソースを検討する-提携戦略
3.アウトソースは自社の強みにはなり得ないので、バリューチェーン分析を行って鍵になる強み以外のプロセスのアウトソースを検討する。-コア・コンピタンス戦略:決して自社の核になる強みをアウトソースしない。たとえば、門外不出の秘伝のたれが吉野家のビジネス成功の根幹を成すようであれば、いくらコストが安くなるといっても外部企業には任せない。