☆子宮内膜NK細胞とは? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

NK(ナチュラルキラー)細胞は血液中に存在し、癌細胞やウイルス感染細胞を攻撃•排除し、生体を守る細胞傷害性リンパ球です。自然免疫の主要因子として働き、T細胞とは異なり事前に感作させておく必要がないことから、生まれつき(ナチュラル)•細胞傷害性(キラー)と名付けられました。血液中のNK細胞は子宮内に移動(migration)してきて、子宮内膜NK細胞となると考えられています。通常の子宮内膜NK細胞は、胎児を異物として排除するのではなく、胎児を受け容れるように働いて、妊娠維持に関与していると考えられています。一方、不育症の一部の方ではキラー活性の強い子宮内膜NK細胞が存在し、胎児を排除する方向に働くことが知られています。このような場合には、子宮内膜NK細胞の密度が高くなることが多いようです。本論文は、子宮内膜NK細胞が高密度に存在する場合に治療をすべきかパイロットスタディー(先行研究)を行ったところ、十分実現可能であることを示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 1743(英国)
要約:2008~2010年に3回以上の流産をした40歳未満の原因不明習慣流産の女性160名を対象に、子宮内膜を採取し、子宮内膜NK細胞の密度を測定しました。ステロイド(プレドニゾロン)治療が好ましくないとされる疾患(高血圧、糖尿病、BMI >35、精神疾患)の方は除外しました。子宮内膜NK細胞(CD56)の密度は5%をカットオフとし、5%以上で同意の取れた40名をランダムに2群に分け、プレド二ゾロン群とプラセボ群の比較をしました。プレド二ゾロン群は、妊娠判明と同時にプレド二ゾロン20mgを6週間投薬し、その後減量(10mg x 1週間、5mg x 1週間)しました。生産率は、プレド二ゾロン群が60%(12/20)、プラセボ群が40%(8/20)であり、有意差を認めませんでした。両群ともに、母子の合併症や副作用は変わりませんでした。なお、本研究の治療において、もしランダムに割り付けられないとしたら、85%の患者さんは積極的な治療(プレド二ゾロン)を希望されました。

解説:子宮内膜NK細胞が高密度に存在する場合に、本当に流産のリスクとなるかについての結論は得られていません。子宮内膜NK細胞には、ステロイドホルモン(グルココルチコイド)受容体が存在することが知られており、3週間のステロイド(プレドニゾロン)治療により子宮内膜NK細胞の密度が減少することが報告されています。プレドニゾロンは胎盤通過性があり、少量の投薬で十分胎児に到達させることができます。一般の方は誤解されていますが、妊娠初期にプレドニゾロンが必要なケースは非常に多く(喘息、リウマチ、膠原病など)、結果的に安全性の高い薬剤であることが知られています。

NK細胞には次の3種類があります。
①CD56+ CD16+
②CD56-CD16+

③CD56+CD16-
血液中のNK細胞の90%は①②で細胞傷害性がありますが、子宮内膜のNK細胞の70~90%は③で細胞傷害性がほとんどありません。習慣流産の方の血液中も子宮内膜においても、③が少なく①が多いことが知られています。同様に③の減少と①の増加は体外受精反復不成功や不妊症の方でも認められます。また、着床部位にはCD57陽性NK細胞が認められますが、 ③のNK細胞はCD57発現が少ないという報告もあります。