アボルブ、知ってますか? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

アボルブ(デュタステリド)について質問がありましたので、調べてみました。
アボルブは前立腺肥大症の薬剤、プロペシアは男性型脱毛症の薬剤ですが、アボルブとプロペシアは同一系統の薬剤で、5α-還元酵素(テストステロン:T→ジヒドロテストステロン:DHT)阻害薬です。アボルブはプロペシアよりも脱毛症への効果が強力だとされていますので、実際は前立腺肥大症よりもはるかに多く脱毛症の治療として処方されているようです。どちらもDHTが減少しますが、DHTは精巣の精子形成に影響することがラットの実験で知られています。本論文は、アボルブとプロペシアの精子への影響を検査したところ、精液所見の低下がみられ、薬剤中止により回復したことを示しています。

JCEM 2007; 92: 1659(米国)
要約:99名の健常男性(18~55歳)に、アボルブとプロペシアを使用したRCTスタディーを行いました。アボルブ群33名(0.5mg)、プロペシア群34名(5mg)、プラセボ群32名につき1年間経過観察を行いました。採血と精液検査を投与中26週、52週と投与後24週で行いました。アボルブとプロペシアともに、血液中のDHT減少(93.4% vs. 72.7%減少)、一過性のテストステロン増加を認めました。アボルブとプロペシア投与中26週の総精子数が有意に減少(28.6% vs. 34.3%減少)しましたが、投与中52週(24.9% vs. 16.2%減少)と投与後24週(23.3% vs. 6.2%減少)では有意差は認めませんでした。また、投与中52週での精液量は、アボルブ群で有意に低下(29.7%減少)しましたが、プロペシア群では有意ではありませんでした(14.5%減少)。両群とも精液濃度低下は有意ではなく、精子運動率は全期間を通じ両群とも有意に低下しました。薬剤を投与した内およそ5%の方では、投与中の総精子数が投与前の10%未満にまで低下しましたが、投与後には回復しました。

解説:男性では、テストステロン(T)の4~8%が5α-還元酵素によりジヒドロテストステロン(DHT)に変換されます。TもDHTも男性ホルモン作用があり、DHTの方が強力です。DHTは前立腺と毛胞に作用することから前立腺肥大症と男性型脱毛症の治療に用いられます。5α-還元酵素には2種類あり、1型は皮膚と肝臓と精巣に、2型は外陰部の皮膚と精巣上帯に存在します。プロペシアは2型5α-還元酵素を阻害することでDHTを70%減少させますが、アボルブは1型と2型の両方の5α-還元酵素を阻害しDHTを90~95%減少させます。TとDHTがどのように精子形成に関与しているか明らかではありませんし、同様に5α-還元酵素の1型と2型が造精機能にどのような役割を持つか明らかではありません。

本論文では、一部の方(約5%)を除き、投薬による精液所見の低下は20~30%程度にとどまっています。一方、血液中のDHTは70~90%減少していますので、Tのみで十分精子形成が可能なのではないかと推察されます。先天性の2型5α-還元酵素欠損症の9例報告では、正常な精液所見から精子減少症まで様々ですが、共通していることは前立腺の萎縮と精液量の減少であるため、DHT減少は前立腺への影響がメインで精巣への影響は少ないと考えられます。また、精液所見の回復は、アボルブよりプロペシアの方が早くなっていますが、これはプロペシアの方が半減期が短いことで説明できます。

5α-還元酵素阻害剤であるアボルブとプロペシアが同じ作用や副作用を持つことは自然です。妊娠を目指す男性は、このような系統の育毛剤の使用を控えるべきだと思います。結局、「精子形成=前立腺=男性型脱毛」がリンクしているという訳です。

下記の記事も参考にしてください。
2012.10.7「育毛剤の精子(精液)への影響は?」
2013.4.9「☆妊娠中の育毛剤」
2013.8.18「☆プロペシア以外の育毛剤やハーブの影響は?」