☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

久しぶりに環境ホルモンの話題を提供します。環境ホルモンの一種であるビスフェノールAの暴露によりDNAメチル化パターンが変化することや、卵子の数や質が低下することが報告されています。本論文は、ビスフェノールAの暴露により男性ホルモンが低下することを示しています。

Fertil Steril 2013; 100: 472(米国)
要約:290名の男性の血中のビスフェノールA濃度と男性ホルモン濃度を測定しました。種々の交絡因子を補正して計算したところ、血中ビスフェノールA濃度は、アンドロステンダイオン低下、遊離テストステロン低下、遊離アンドロゲン指数低下、性ホルモン結合グロブリン増加と関連していました。職業上のビスフェノールA暴露がある男性は、暴露のない男性と比べ、男性ホルモン減少の程度が強く出ていました(同一地域のタッパー製造工場勤務の男性とそうでない男性を比較)。

解説:ビスフェノールAは、ポリカーボネート製のプラスチックを製造する際や、エポキシ樹脂の原料として広く利用されています。ポリカーボネートやエポキシ樹脂は現在、哺乳瓶、水道管、食品や飲料品の容器、歯科の詰め物、コピー用紙、レシートの紙などに使われています。これらを強力な洗剤で洗浄した場合、酸や高温の液体に接触させた場合にビスフェノールAが溶け出し、それを口にすることで体内に入ります。ビスフェノールAを摂取すると、エストロゲン(女性ホルモン)受容体が活性化されて、女性ホルモン的な働きを示すため、「環境ホルモン」という名前がつきました。90%以上の方にビスフェノールAが検出されることが知られています。また、卵胞液や羊水中にもビスフェノールAが存在します。日本では、毒性試験に基づいてヒトに毒性が現れないと考えられた量を基に、2.5 ppm以下という溶出試験規格を設けています。しかし、動物の胎児や産仔に対し、これまでの毒性試験では有害な影響が認められなかった量より、極めて低い用量の投与により影響が認められたことが近年報告され、ヒトでの胎児や乳幼児への影響が懸念されています。現在欧米では、ヒトの健康に影響があるかどうか再評価が行われています。
2008年、厚生労働省は「成人への影響は現時点では確認できない」としながらも「ビスフェノールAの摂取をできるだけ減らすことが適当」と発表し、一般消費者向けの「ビスフェノールAについてのQ&A」を公表しました。その中で、ポリカーボネート製の哺乳びんについて、熱湯を使うとビスフェノールAがより速く移行するので、熱湯を注ぎ込まないこととか、他の材質のもの(ガラスなど)に変更する選択肢があることを記載しています。また、食品缶や飲料缶について、ビスフェノールAの溶出が少ないものへ改善が進んでおり、通常の食生活を営む限りビスフェノールAの曝露は少ないものと思われるが、念のため、毎日缶詰を食べるような食生活はしないようにと記載しています。なお、カナダは2010年、世界で初めてビスフェノールAを有毒物質に指定しました。

アンドロステンダイオン、遊離テストステロン、遊離アンドロゲン指数はいずれも男性ホルモンを現しています。また、性ホルモン結合グロブリンは、これらのホルモンに結合するタンパク質ですから、これが増加すると男性ホルモンが低下します。本論文は、血中ビスフェノールAが、全体として男性ホルモンを減少させるように働くことを意味しています。男性ホルモンが減少すれば、男性の性機能にも悪影響が出ても不思議はなく、これまでに造精機能低下や性行動減少などが報告されているのも納得できます。環境ホルモンは、総じて女性ホルモンを増加させ、男性ホルモンを減少させる作用がある物質と言えます。

環境ホルモンについては、下記の記事も参考にしてください。
2012.12.15「環境ホルモンの影響 女性編 その1」
2012.12.19「環境ホルモンの影響 男性編」
2013.1.8「環境ホルモンの影響 女性編 その2」
2013.8.13「子宮内膜症と環境ホルモンの関係」