ICMの大きさで妊娠率が変わる? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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斬新なアイデアの研究は心惹かれます。本論文は、ICM(胎児になる部分)の比率が大きいものを選択すると妊娠率が高くなる可能性を示唆しています。

 

Fertil Steril 2016; 106: 1386(イスラエル)

要約:Phase 1:2012〜2014年単一胚盤胞移植を行った63名ICMの大きさ(ICM/胚盤胞比)をタイムラプスを用いて計測し、妊娠との関連を後方視的に検討しました。ICM/胚盤胞比は、胚盤胞が拡張と収縮を開始する前(顕微受精から114〜116時間)に計測しました。非妊娠群(平均0.337)と比べ、妊娠群のICM/胚盤胞比(平均0.487)は有意に大きくなっていました。なお、妊娠率39.7%(25/63)、生産率28.6%(18/63)でした。

Phase 2:2014年以降単一胚盤胞移植を行った64名のICM/胚盤胞比をタイムラプスを用いて計測し、ICM/胚盤胞比が最大の胚を移植し、妊娠との関連を前方視的に検討しました。非妊娠群(平均0.449)と妊娠群のICM/胚盤胞比(平均0.463)は同じであり、妊娠率67.2%(43/64)、生産率56.3%(36/64)でした。

 

解説:胚盤胞のグレードにはガードナー分類が用いられています(4AAとか3BCなど)。この分類を超えるものは現在のところありません。もちろんPGSを実施すれば、染色体異常のない胚を選択できます。しかし、PGSにはコストの問題や細胞へのダメージの問題などが存在するのも事実です。もっと簡便で、費用もかからない方法がないか、本論文はその答えのヒントを示しているように思います。本論文は、ICM/胚盤胞比が大きなものを選択すると、妊娠率が高くなることを示しています。厳密なICM/胚盤胞比の計測にはタイムラプスが必要ですが、胚選択に迷った場合には、ICMが大きいものを選ぶと妊娠への近道になるかもしれません。ただし、本論文のデータだけでは不十分であり、追試や症例数を増やした検討が必要ですが、今後の研究の発展に期待したいと思います。