☆モザイク胚を移植したらどうなるか? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、モザイク胚を移植したらどうなるかについて検討したものです。モザイク胚の取り扱いについて深く考えさせられます。

 

Fertil Steril 2018; 109: 77(イタリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.09.025

Fertil Steril 2018; 109: 54(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.11.022

要約:2013〜2016年に採卵を行いPGS(PGD-A)を実施した方で、正常胚が得られずやむなくモザイク胚を移植した77周期の妊娠予後について前方視的に検討しました。正常胚移植(250周期)と比較し、モザイク率50%未満(44周期)とモザイク率50%以上(33周期)の結果は下記の通り。

 

           正常胚      モザイク率50%未満   モザイク率50%以上

妊娠判定陽性率  64.0%(160/250)  59.1%(26/44)    33.3%(11/33)*

着床率      54.6%(137/250)  48.9%(22/44)    24.2%(8/33)*

出産率      46.4%(116/250)  40.9%(18/44)    15.2%(5/33)*

*モザイク率50%以上と正常胚、モザイク率50%以上とモザイク率50%未満との間に有意差あり

なお、正常胚とモザイク率50%未満の間には有意差はなく、モザイク胚で出産した児は全て健常児でした。

 

解説:2015年、臨床医学では最もインパクトの大きな雑誌であるN Engl J Med(2015; 373: 2089)にモザイク胚から健常児が6名出産したとの論文が発表されました。まさしく本論文のグループからの報告であり、本論文はその6名を含め23分娩24名が全て健常児との衝撃的な事実を示しています。これは、現在のPGSには限界があることを物語っています。これには様々な要因があると思いますが、考えれば考えるほど、現在のPGSの問題点が浮き彫りになります。そもそも論ですが、胎盤になる細胞と胎児になる細胞は異なる可能性があります。したがって、数個の胎盤になる細胞から胎児になる細胞の染色体を予測するには限界があると考えるべきでしょう。また、異常細胞は淘汰される仕組みがあっても不思議ではありませんので、モザイクの中の異常細胞群が自然淘汰(あるいは自己修復)されて正常なものだけが残ることも十分考えられます。さらに、異常細胞が胎児になる細胞の中に当初あったとしても、胎盤になる細胞の側に後に移動されるのではないかとの考えもあります。

 

コメントでは「NGS法で29,000個の胚盤胞を分析した結果、モザイク型の違数性9.55%、部分的モザイク7.34%、複合型モザイク4.92%であり、実に21.8%にモザイクが認められました。しかし、妊娠中の絨毛検査でのモザイク率は1〜2%であり10倍以上の違いがあります。つまり、PGSでモザイク胚と言われる胚の中には、元気な赤ちゃんになれる胚が存在するのは間違いないと考えます。そのためモザイク胚の取り扱いについては、一律に廃棄するのではなく、正常胚が得られなければ移植の対象として考慮しても良いのではないかと考えます。疑わしきは罰するのか、許容するのか、慎重な対応が望まれます」としています。

 

なお、ここでいうモザイク胚とは完璧にモザイクと診断された胚であり、「可能性あり」「可能性大」とは異なりますので、ご注意ください。