☆イブプロフェンによる妊娠初期の胎児卵巣への影響 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、イブプロフェンによる妊娠初期の胎児卵巣への影響を検討したものです。

 

Hum Reprod 2018; 33: 482(フランス)

要約:2013〜2017年に合法的に人工妊娠中絶を実施した185名(妊娠7〜12週)を対象に、胎児卵巣を採取しました。患者さんは鎮痛剤としてイブプロフェン(0、400、800mg)を服用し、その影響を検討しました。臍帯血中のイブプロフェン濃度は摂取なしで0μM、400mg摂取後2.1μM、800mg摂取後2〜5時間で7.1μMでした。イブプロフェンの治療濃度は10〜200μMであるため、イブプロフェンに暴露していない胎児卵巣にイブプロフェンを添加(0、1、10、100μM)で培養しその変化を観察しました。妊娠週数に関わらず、イブプロフェン10及び100μM添加により、胎児卵巣は細胞数減少、増殖能低下、アポトーシス増加、生殖細胞の大幅な減少を認めました。イブプロフェン10μMを7日間投与することで有意な変化が生じ、この濃度ではアポトーシスは2日後に認められ、生殖細胞も有意に減少しました。また、この効果は薬剤を除去した5日後では完全には回復しませんでした。

 

解説:イブプロフェンは、妊娠中の女性が使用する解熱鎮痛剤の中で、アセトアミノフェンに次ぎ2番目に使用頻度が高い処方箋不要の薬剤です。2013年の調査では、妊娠中の女性の28.3%がいずれかの時期にイブプロフェンを服用しています。イブプロフェンは、妊娠24週までは安心して使用できる薬剤として知られていますが、胎児卵巣への影響についての検討はありませんでした。本論文は、イブプロフェンが胎児の卵巣の生殖細胞を減少させる可能性を示唆しています。あくまでもin vitroの実験ですので、本当に生体内(in vivo)でも同様な現象が起きるのかは不明です。また、通常の治療量では影響は出ていません。しかし、本論文は、これまで問題ないとされていた薬剤であるイブプロフェンの使用に警鐘を鳴らすものであり、今後の検討に注目したいと思います。

 

多くの鎮痛剤はNSAIDsであり、COX阻害剤と呼ばれます。COXはアラキドン酸をプロスタグランジンに変換する酵素であり、卵巣にはCOX2が存在しています。COX2阻害は卵巣の発生にブレーキとなるため、大人の卵巣での影響は検討されていますが、胎児の卵巣での検討はこれまでなされていませんでした。しかし、プロスタグランジンは胎児生殖細胞の生存に関連することが知られていますので、COX2阻害が影響する可能性が示唆されます。本論文はこのような背景の元に行われ、イブプロフェンが胎児卵巣の生殖細胞にマイナスの効果をもたらすことを示しています。これまで安全と考えられていた薬剤の安全性が問われる報告であり、極めてインパクトが大きいと思います。もちろん、本論文だけで結論を導くことはできませんので、今後の検討が必要です。