最近読んでよかった本 その43 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

最近読んでよかった3冊を簡単に紹介します。

なお、紹介の順番は五十音順にしています。

 

 

「がん消滅の罠〜完全寛解の謎」岩木一麻

日本がんセンター呼吸器内科の夏目典明医師、公衆衛生の羽島悠馬医師、大日本生命保険の森川雄一氏は大学時代の同級生。森川は、生命保険の調査部に所属しており、不審な保険請求を調査する係だ。夏目が余命半年の宣告をした肺癌患者4人がリビングニーズ特約で生前給付金を受け取った後、完全寛解し生存していることが発覚する。偶然が重なったにしてはあまりに不自然であるため、夏目、森川、羽島の3人は完全寛解の謎を追う。一方、学会では無名の湾岸医療センターでは、癌の早期発見、転移巣の完全寛解をうたって、著名人や会社社長、厚生官僚などの高額所得者のオペを請け負っているという噂を知る。湾岸医療センターの理事長、西條征士郎はかつて夏目の上司であり夏目の学位論文の面倒をみた人物、元東都大学医学部腫瘍内科講座教授だった。西條は大学を中途退職する際に「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったことをする」と謎めいた言葉を残していた。後に、西條は妻を病気で亡くし、娘が自殺していたことが明らかになる。夏目、森川、羽島は真相解明に向け奔走する。なぜ癌は消えたのか?湾岸医療センターの医療とは?そして西條の目的は?息を呑む展開、最後のどんでん返しに驚きます。「チーム・バチスタの栄光」を彷彿とさせる「このミステリーがすごい!」大賞受賞作です。大満足の一冊です。

 

 

「死香探偵」喜多喜久

亡くなった方から発する匂いを嗅ぎ分け識別する能力を持つ桜庭潤平は、遺体に汚染された室内をきれいにする特殊清掃員として働いていた。しかし、いつしか悪臭であるはずの「死臭」が食べ物の匂いである「死香(しこう)」に感じられるようになり困っていた。そこへ登場したのが、東京科学大学薬学部のイケメン准教授、風間由人。風間は犯罪捜査に用いる分析技術の研究を行っており、警察にとって一目置かれる存在だ。風間は潤平の能力に魅了され、犯罪捜査の手伝いをする助手として採用し、未解決の殺人現場に連れ出す。微妙な残り香「死香」から殺人事件の犯人を見つける短編が4編。科学者ならではの作者のアイデア満載です。「死臭」を「死香」と言い換え、犯罪捜査の有力な手段として用いる本作品、奇抜なアイデアとはこのようなものを言うのでしょう。

 

 

「望郷」湊かなえ

瀬戸内海に浮かぶ白綱島を舞台として起きる様々な事件が6編、島での生活と都会への憧れ、実際に都会での生活をした時の落差や葛藤など様々な人間模様を描いた作品です。事件といっても、妬み、いじめ、葛藤などのマイナス面から綴られ、淡々と語られる過去、散りばめられた伏線を見事に回収する手腕はさすがです。因島(いんのしま)出身である湊かなえさんの心がこもった作品です。