☆DHEAは着床を促進する? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、DHEAが着床を促進する可能性を示唆したものです。以前ご紹介した論文(2017.1.18「DHEAは着床障害を引き起こす?」)とは真逆の結果になっています。

 

Fertil Steril 2018; 109: 728(英国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.12.024

Fertil Steril 2018; 109: 623(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.01.027

要約:高齢女性16名(平均年齢44.7歳)の増殖期(低温期)子宮内膜を採取し、子宮内膜間質繊維芽細胞を分離しました。これにプロゲステロン 1μMとcAMP 0.1 mg/mLを添加培養し、DHEA(0、10、100 nM)によって脱落膜化の程度がどのように変わるかについて検討しました。なお、ホルモン療法中の方と子宮内膜症の方は除外しました。脱落膜化のマーカーとして、IGFBP1とプロラクチンを、子宮内膜受容能のマーカーとしてSPP1を用い、PCRとELISAで評価しました。脱落膜化反応は高齢女性においても保たれており、DHEA添加により子宮内膜のテストステロン(T)濃度およびジヒドロテストロン(DHT)濃度は約3倍に増加すると共に、IGFBP1、プロラクチン、SPP1の発現および蛋白量も培養8日目まで有意に増加ました。

 

解説:ドナー卵子を用いた胚移植ではレシピエントの女性が50歳以上の場合に着床率が低下することが知られています。また、自己卵においても40代半ば以降は着床率が低下することが報告されています。このため、年齢因子は卵の質のみならず着床にもわずかながら影響すると考えられています。さて、着床に必須な子宮内膜の変化に「脱落膜化」というものがあります。意外なことに、脱落膜化には男性ホルモンであるTおよびDHTが必要であり、DHEAをTおよびDHTに変換する酵素が子宮内膜に存在しています。DHEAは年齢とともに減少し、20代の女性と比べると40〜50歳ではDHEAがおよそ半分になります。加齢に伴うDHEAの減少が着床率低下と関連があるのではないかとの推察のもとに本論文の研究が行われ、高齢女性の子宮内膜にDHEAを添加することにより、TおよびDHTが増加し、脱落膜化のマーカーも子宮内膜受容能のマーカーも改善することを示しています。

 

2017.1.18「DHEAは着床障害を引き起こす?」でご紹介した論文は、マウスのPCOSモデルでの検討でしたが、本論文はヒトの子宮内膜細胞を用いた検討(ただしin vitroでの検討)ですので、実際の臨床に即しているものと想像されます。ただしコメントでは、研究内容についていくつかの不備(エストロゲンを使用していないこと、DHEAをさらに過剰で投与すると逆効果になっていること、男性ホルモンが黄体ホルモン受容体を刺激している可能性など)を指摘しています。したがって、今すぐ結論づけることはできませんが、「移植周期にはDHEAをやめた方が良い」とのこれまでの考えを「移植周期にも使っても良い(あるいは使うべき)」に改めなければならないかもしれません。

 

これまでにも何度も述べてきたように、医学の常識は常に変化しますので、常に知識のアップデートが欠かせません。今後の研究の動向に注目が必要です。