片側の精巣がない場合の精巣の機能 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

「片側の精巣がない場合に精巣の機能はどうなるのでしょうか?」という質問がありましたので、論文を調べて見ました。

 

J Vet Med Sci 2004; 66: 1021(日本)

要約:16週齢のオスのビーグル4頭の片側精巣を摘出し、対照群4頭48週齢まで比較しました。片側精巣摘出群の精巣容量は対照群より25%有意に増加していました。精液量、運動率、生存率、奇形率、テストステロン濃度は、2群間で有意差はありませんでしたが、片側精巣摘出群の精子数は有意に低く、片側精巣摘出群のLH濃度は有意に高くなっていました。

 

解説:動物やヒトの身体で二つある臓器のうち一つが無くなった場合には、残された臓器が二つ分の働きをする「代償作用」があります。例えば、片側の腎臓摘出を行うと残された腎臓は約1.5倍に大きくなり1.5倍働くようになります。本論文は、片側精巣摘出の場合にどうなるかについて検討したものであり、精子数とLHは代償されないけれども、精巣容積やテストステロンは代償されることを示しています。つまり、片側精巣を摘出しても精子を作る力は増加しないことになります。

 

ビーグルの精巣機能は20週齢で活発になり、32週齢がピークです。16週齢までにはセルトリ細胞や精子細胞が認められ、26週齢以降に精子が産生されます。本論文の精巣摘出は16週齢ですので、精巣機能が始まる前の段階(つまり思春期前)での摘出になります。他の動物では思春期前の精巣摘出時の代償作用は様々であり、羊、豚、牛、ラットでは精巣容積が増加しますが、ウサギでは増加しません。なお、大人のビーグルの精巣摘出を行っても精巣容積は代償されません。