☆モザイク胚や異常胚の移植について | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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Q モザイク胚や異常胚の移植に関する類似の質問がブログに多数寄せられます。

この件については、2018.4.6「☆PGSの真価は?」の①②④⑤の論文の著者でもあり、2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産」の記事でインタビューを受けているニューヨークの医師、Dr. Norbert Gleicherが第一人者ですので、直接メールで意見を伺いました。彼がAm J Reprod Immunolの編集長をされていた時に、私は毎年論文をその雑誌に掲載させていました。その時のつながりからお返事をいただくことができましたので、それを元に下記の質問にお答えさせていただきます。

 

①2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産」のQ2の質問者さんから

記事の出産に至った胚の分析方法がNGSでないことを示す文言はありますか。もしあればURLを教えていただけると助かります。記事の出産に至った胚の採卵年は2014年で、NGSはイタリアで2013年に、日本でも2014年には開始されているので、記事の女性もNGSではないかと思うのですが、間違いなくaCGHでしょうか。
 

②PGSにてトリソミーモザイク診断されました。8番と17番は、トリソミーモザイク。22番は報告書にはトリソミーとありましたが、グラフはモザイクの位置には近いですが、完全には達していませんでした。やはり、3つもの染色体がモザイクの場合は、可能性なく出産まではたどり着けないのでしょうか。


③16番モノソミーの移植は可能ですか。着床した場合、健常児として出産しますか。

 

A Dr. Norbert Gleicher氏から

①NGS法が試験的に(研究として)実施されたのは質問者さんが記載された年代からですが、実用化したのは2016年7月からになります。この時にPGSの新しいガイドラインが、他の方法(CGH法やFISH法)の有用性を否定したためです。したがって、出産に至った女性は間違いなくNGS法ではありません。

②③2018.4.6「☆PGSの真価は?」の論文②にあるように、TE細胞を4〜5個採取して分析する現在の方法ではモザイク胚の検出は不可能です。モザイク胚を検出するには、少なくとも27個の細胞を採取する必要があるのですが、それほどたくさんの細胞を採取することはできません(胚が死んでしまいます)。従って、現在のNGS法によりモザイク胚や異常胚が判断されたとしても、必ずその通りである確証は持てないことになります。すなわち、異常の中にも正常があるという訳です。しかし、そうなると、果たしてPGS検査の意義があるのかという「そもそも論」になります。細胞を採取するダメージは少なくないことが予想されますので、もしモザイク胚や異常胚を移植するのであれば、検査しない(ダメージのない)胚移植をすれば良いわけです。つまり、昔へ逆戻りです。PGSがなかった時代に胎児の染色体異常率が高かった訳ではありません。淘汰されるものは淘汰され、修復されるものは修復されてきた証とも言えるでしょう。従って、②③の答えは「移植しても差し支えない」ことになります。しかし、もし移植するならば「何故PGS検査をしたのか」原点に戻って考える必要があるでしょう。

 

下記の記事を参照してください。

2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い