Q&A1957 ☆葉酸5mg摂取しても二分脊椎でした | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 数ヶ月前に第三子を開放性の二分脊椎で中期中絶しました。それまでは医者からは4人目も産むか?と言われていたのに、胎児異常がまた出る可能性が5%あるからもう諦めるようにと言われているのです。本当にそうなのでしょうか。どうしてもというなら半年空けて妊娠するように言われました。
 
38歳です。子宮内膜症が20代後半からあり、悪阻は毎回とてもきつく10週間動けません。出産は31歳と34歳の時も帝王切開。葉酸5mgを妊活中から摂っていたのに効果がなかったし、妊娠中に卵巣嚢腫が10cm程度まで大きくなっていました。卵巣嚢腫は帝王切開時に除去しました。

同じ医者に第一子の出産前から診てもらっていますが、他の医者にも診てもらうか、何らかの検査を受けるか、葉酸以外の何かを摂取するとか改善する方法はないのでしょうか。

A 厚生労働省からは、2000
年12月28日付で「神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に係る適切な情報提供の推進について」という通達が出されています。以下にその抜粋を記します。 

1 葉酸について:葉酸はビタミンB群の水溶性ビタミンで造血に作用する。不足すると貧血が生じることがあるが過剰な場合に発症する疾患は特に知られていない。体内の蓄積性は低く、毎日摂取することが必要である。葉酸は緑黄色野菜、果物などの身近な食品に多く含まれる。

2 神経管閉鎖障害について:神経管閉鎖障害は、主に、先天性の脳や脊椎の癒合不全のことをいう。脊椎の癒合不全を二分脊椎といい、生まれたときに、腰部の中央に腫瘤があるものが最も多い。また、脳に腫瘤のある脳瘤や脳の発育ができない無脳症などがある。我が国において神経管閉鎖障害の発症率は、1998年で出産(死産を含む)1万人対6.3、うち二分脊椎は3.2程度とされている。

3 日本における葉酸摂取による神経管閉鎖障害の発症リスク低減の効果については、現時点では明確な疫学的根拠が確立されている訳ではないが、以下の理由から、日本においても諸外国と同様に、葉酸摂取による神経管閉鎖障害の発症リスクの低減のための方策を講じることが適切である。

ア 諸外国で行われた複数のいわゆる栄養補助食品を用いた疫学研究の結果において、 葉酸が神経管閉鎖障害の発症リスクを低減するというほぼ一致した成績が得られていること。

イ 葉酸の代謝物が神経管閉鎖障害の発症機序に関与するという医学的な根拠が示されていること。

ウ 欧米諸国を中心に1990年代より葉酸摂取による神経管閉鎖障害の発症リスクの低減対策が実施されていること。

エ 1980年代以降の出生前診断技術の向上に伴う人工妊娠中絶などの影響により、ウの対策による神経管閉鎖障害の発症リスクの低減の効果は必ずしも明確ではないが、最近の米国サウスカロライナのデータから葉酸摂取による神経管閉鎖障害の発症リスク低減の効果が示唆されていること。

オ 中国南部での介入研究を含む最近の研究の成果をもとに評価を試みたところ、我が国においても葉酸摂取により神経管閉鎖障害の一定の発症リスクの低減が推定されること。

カ 我が国においても、近年、二分脊椎の発症が増加傾向にあること、また食生活の多様化により、食物摂取の個人格差が大きくなり、葉酸摂取が不十分な者が増加する懸念もあること。

4 神経管閉鎖障害の発症は遺伝要因などを含めた多因子による複合的なものであり、その発症は葉酸摂取のみにより予防できるものではなく、一定量の葉酸の摂取により集団としての発症のリスクの低減が期待できるという性格のものであることを説明する必要があること。

5 保健医療関係者は、葉酸摂取の情報提供を行うに当たり、妊娠可能な年齢の女性等の本人の判断に基づく適切な選択を可能とし、また過度の不安を招かないよう、以下の情報を提供すること。

ア 妊娠可能な年齢の女性に関しては、神経管閉鎖障害の発症リスクを低減させるためには、葉酸摂取が重要であるとともに、葉酸をはじめその他ビタミンなどを多く含む栄養のバランスがとれた食事が必要であること。

イ 妊娠を計画している女性に関しては、神経管閉鎖障害の発症リスクを低減させるために、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、葉酸をはじめその他のビタミンなどを多く含む栄養のバランスがとれた食事が必要であること。
 なお、野菜を350g程度摂取するなど、各食品について適正な摂取量を確保すれば、1日0.4mgの葉酸の摂取が可能であるが、現状では食事由来の葉酸の利用効率が確定していないことや各個人の食生活によっては0.4mgの葉酸摂取が困難な場合もあること、最近の米国等の報告では神経管閉鎖障害の発症リスク低減に関しては、食事からの摂取に加え0.4mgの栄養補助食品からの葉酸摂取が勧告されていること等の理由から、当面、食品からの葉酸摂取に加えて、いわゆる栄養補助食品から1日0.4mgの葉酸を摂取すれば、神経管閉鎖障害の発症リスクが集団としてみた場合に低減することが期待できる旨情報提供を行うこと。
 ただし、いわゆる栄養補助食品はその簡便性などから過剰摂取につながりやすいことも踏まえ、高用量の葉酸摂取はビタミンB12欠乏の診断を困難にするので、医師の管理下にある場合を除き、葉酸摂取量は1日当たり1mgを越えるべきではないことを必ずあわせて情報提供するとともに、いわゆる栄養補助食品を利用することが、日常の食生活のあり方に対する安易な姿勢につながらないよう周知すること。

ウ 神経管閉鎖障害の児の妊娠歴のある女性に関しては、神経管閉鎖障害発症のリスクが高いことから、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までの間、 医師の管理下での葉酸の摂取が必要であること。

エ 妊娠を計画している女性に関しては、妊娠中のみならず妊娠前からの適切な健康管理が重要であること。すなわち、妊娠中の母体の健康と胎児の健全な発育のため、日頃から多様な食品を摂取することにより栄養のバランスを保つなど食生活を適正にし、妊娠中の禁煙・禁酒が不可欠であること。

6 先天異常の多くは妊娠直後から妊娠10週以前に発生しており、特に中枢神経系は妊娠7週未満に発生することが知られている。このため、多くの妊婦が妊娠して又は妊娠の疑いを持って産婦人科の外来に訪れてからの対応では遅いと考えられることから、多くの研究報告と諸外国の対応では、葉酸の摂取時期を少なくとも妊娠の1か月以上前から妊娠3か月までとしている。一方、妊娠が判明してからの摂取でも効果がみられたとする報告もある。

7 葉酸の摂取については、以下の点を考慮する必要がある。

ア 調理による損失:葉酸は熱に弱く、調理に際して50パーセント近くが分解するか、水溶性のためにゆで汁に溶出するため、調理によって失われやすい。

イ 利用効率について:食品中の葉酸(folate)といわゆる栄養補助食品中の葉酸(folic acid)の体内の利用効率について差がある。いわゆる栄養補助食品の葉酸は生体内の利用効率が85%と見積もられているのに対して、食品中の葉酸は代謝過程に様々な段階があるため、利用効率が低下する。幾つかの研究では、食品中の葉酸の利用効率は50%程度と見積もられている。

ウ 摂取方法について:第六次改定日本人の栄養所要量に基づき作成した食品構成に従って食品摂取を行えば、葉酸0.4mgが摂取できるものと推計される。なお、21世紀の国民健康づくり運動である「健康日本21」では野菜(葉酸が多く含まれる)の摂取量の増加を目指しており、現在1日292gの摂取量を2010年に1日350gにすることを目標としている。各栄養素の摂取は日常の食生活によることが基本となるものであり、安易にいわゆる栄養補助食品に頼るべきではない。

エ 摂取量について:これまでの疫学研究においては、葉酸摂取量が1日0.36~5mgの範囲で、いわゆる栄養補助食品を用いた摂取方法による神経管閉鎖障害の発症リスクの低減がみられている。また、主要国の葉酸摂取の勧告では1日0.4~5mgとなっている。疫学研究において、葉酸摂取量の増加に伴い大きな低減がみられるという関係は認められていないことから、発症リスクの低減に有効である最小摂取量を概ね1日0.4mgであると考え、食事に加え、いわゆる栄養補助食品による1日0.4mgの葉酸摂取の情報提供を行うこととした。

オ 他の薬物服用による影響について:抗てんかん剤等長期にわたって服用が必要な薬剤の中には、葉酸の欠乏を生じるものもあることから、これらの情報について医師に対する情報提供が必要である。
 

また、日本産科婦人科学会からは、産科ガイドライン2014 p78に下記の記載がされています。

CQ105 神経管閉鎖障害と葉酸の関係について説明を求められたら?

1 市販のサプリメント類によって1日0.4mgの葉酸を妊娠前から摂取すると、児の神経管閉鎖障害リスクが低減することが期待できる。

2 神経管閉鎖障害児の妊娠既往がある女性が、医師の管理下に妊娠前より1日4mg(5mg1錠)の葉酸を服用した場合、同胞における発症が低減することが期待できる。*

*1日4mgの用量対効果が十分に検討されたわけではない。1日0.4mgの葉酸摂取は、神経管閉鎖障害の発症率を36%低下させ、1日4mgでは82%、5mgでは85%の発症率低下が予測される。なお、神経管閉鎖障害児の妊娠既往がある女性の次回妊娠での再発リスクは一般女性の10倍高いとされています。

 

以上の文献から、質問の回答を記します。

1 次回妊娠での神経管閉鎖障害再発リスクは、一般集団での1万人対6.3の10倍、すなわち6.3/1000=0.63%です。5%には程遠い確率です。

2 葉酸5mgを摂取していても神経管閉鎖障害発症は完璧に抑えられません(発症率は85%低下)。これは、葉酸以外の因子の関与が存在することを意味します。また、悪阻がきつかったとありますので、毎日葉酸5mgを吐かずに確実に服用できたかどうか疑問もあります。なお、神経管閉鎖障害の予防に関する検査、あるいは予防効果のあるサプリメントなどは明らかにされていません。

 

なお、このQ&Aは、約3ヶ月前の質問にお答えしております。