胎盤形成における絨毛プラークの役割 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、胎盤形成における絨毛プラークの役割について検討したものです。

 

Hum Reprod 2018; 33: 1430(ニュージーランド)

要約:これまでのデータから、らせん動脈と絨毛プラークおよび胎盤形成のモデルをパソコン上で作り、解析しました。生体内の絨毛プラークは、大きさ(>0.1mm)からも形状(空隙率0.2〜0.6)からも、子宮動脈からの血液供給を抑制するに十分であり、らせん動脈からの高酸素濃度の流入を防ぐとともに、血管の再構築に必要なずり応力の供給に程よいものです。

 

解説:妊娠成立には胎盤のダイナミックな構造変化が必要不可欠です。妊娠前のらせん動脈(子宮の外側から子宮内部へ侵入する動脈)は、きついコイル状ですが、妊娠中は緩く広がり抵抗がなくなります。この変化には複数のステップが必要とされ、まず胎盤の最も外側の絨毛細胞がらせん動脈内に侵入し血管内皮細胞を絨毛細胞に置き換えます。この際に絨毛プラークが形成されますが、これにより、らせん動脈からの母体血の急激な流入を防ぐこと、高酸素濃度の血液を遮断し胎盤形成を促進すること、絨毛細胞の進展を助けることなどが考えられています。一方で、この絨毛プラーク形成が不十分だと、良好な胎盤形成がなされず、流産、妊娠高血圧症候群、胎児発育遅延をもたらすものと考えます。25年前には、妊娠10〜12週までは絨毛プラークが完璧に血流を遮断すると考えられていました。しかし、ドップラー超音波が登場して、妊娠5〜7週には絨毛プラークが存在してもわずかな血流があることが判明しました。さらに、妊娠週数とともに絨毛プラークは徐々にルーズになり、妊娠13週で解放されることがわかりました。本論文は、胎盤形成における絨毛プラークの役割について、パソコン上のモデルで検討したものであり、大きさや特徴からも十分この役割を担えることを示しています。かなり難解な論文です。

 

絨毛プラークについては、下記の記事を参照してください。

2017.12.21「妊娠初期の子宮胎盤の血流変化