有機リン酸エステルと流産 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、有機リン酸エステル(PFR)と流産の関連についてのEARTHスタディーをご紹介します。

 

Fertil Steril 2018; 110: 1137(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.06.045

要約:2004~2015年155名の女性(18〜46歳)で179囘の体外受精による妊娠を対象に、尿中の有機リン酸エステル濃度とその後の流産(妊娠20週未満)および化学流産との関連について前方視的に検討しました(EARTHスタディー)。なお、採尿は採卵周期のCD3〜CD9に実施しました。検討した有機リン酸エステル(PFR)は、BDCIPP、DPHP、ipPPP、総PFRです。DPHP濃度の下位1/4に対し上位1/4では化学流産が1.64倍に、総PFRの下位1/4に対し上位1/4では化学流産が1.89倍になっていました。なお、BDCIPPおよびipPPPと流産および化学流産の関連は認められませんでした。

 

解説:有機リン酸エステル(PFR)の持つ内分泌撹乱作用については何も明らかにされていません。しかし、PFRは鶏のステロイドホルモンやエストロゲン代謝を変化させることや、ゼブラフィシユの甲状腺ホルモンに影響することが報告されています。また、PFR代謝物がヒトの受精率、着床率、妊娠率、出産率を低下させる可能性が示唆されています。本論文は、このような背景のもとに行われ、一部のPFRと流産の関連を示しています。ただし、サンプル数が少ないため、結論を導くことはできませんので、今後のさらなる検討が必要です。

 

EARTH(Environment and Reproductive Health)スタディーは、生活環境と妊娠を前方視的に検討するスタディーです。これまでに下記の論文を紹介してきましたが、どれもこれまでになかった貴重な知見を提供してくれています。これからもEARTHスタディーから目が離せません。

2018.2.18「☆葉酸と妊娠成績

2018.1.23「☆オメガ3脂肪酸摂取で妊娠成績向上

2017.9.5「アルコールとカフェイン摂取について

2016.12.29「フタル酸が胚発生に与える影響

2016.6.26「全粒粉摂取と子宮内膜厚、妊娠率の関係
2016.3.27「食生活は体外受精の成績に影響を及ぼすか?」
2016.1.19「フタル酸による卵巣予備能低下」
2015.6.11「☆野菜や果物の農薬量と男性不妊の関係」