AMHによる卵胞発育調節 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、AMHによる卵胞発育調節を示しています。

 

Fertil Steril 2018; 110: 1137(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.07.006

Fertil Steril 2018; 110: 1137(ベルギー)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.08.054

要約:整った生理周期の6〜10歳アカゲザル12頭からCD1〜4の片側卵巣を摘出し、卵巣皮質を0.5mm角の立方体にカットし、一次卵胞110〜120μm、二次卵胞150〜225μmを分離し、培養しました。培養は、個別培養あるいはグループ培養とし、AMH添加群、非添加群、AMH抗体添加群で比較しました。グループ培養群では一次卵胞はオルガノイド(3次元的臓器構造)を形成し胞状卵胞に至りましたが、個別培養群では胞状卵胞に至りませんでした。胞状卵胞の前の段階ではAMH投与により卵胞の直径が増加し、胞状卵胞の段階ではAMH抗体投与により卵胞の直径が増加し、成熟卵に至ると共に、VEGF増加、フォリスタチン増加、GDF9遺伝子発現が増加しました。 

 

解説:最近のアカゲザルの研究から、AMHが卵胞発育に重要な役割を担っているのではないかとされています。すなわち、AMHは二次卵胞の発育を促進し、胞状卵胞の成熟を抑制するという報告です。ヒト以外の霊長類や齧歯類では原始卵胞にAMH受容体はありませんので、卵胞の発育段階によってAMHによる調節機構が働いているとすれば、AMH受容体が出現する一次卵胞以降であると考えられます。このような背景のもとに本論文の研究が行われ、一次卵胞、二 次卵胞、前胞状卵胞ではAMHが促進的に、胞状卵胞ではAMHが抑制的に働くことを示しています。ヒト卵胞は、原始卵胞→一次卵胞→二 次卵胞→前胞状卵胞→胞状卵胞の順に発育しますが、原始卵胞の状態で卵巣に保存されていて、その後は持続的に供給されながら半年かけて発育します。AMHは、胞状卵胞以前の小さな卵胞(一次卵胞、二次卵胞、前胞状卵胞)の顆粒膜細胞で作られますので、AMHが促進的に働いているのは、AMHを作っている細胞です。つまり、AMHはautocrine(自己分泌)的に働いていることになります。

 

なお、VEGF、フォリスタチン、GDF9共に、卵胞発育のマーカーと考えられています。フォリスタチンは、アクチビン結合蛋白(アンタゴニスト作用)として発見され、TGFβファミリーに結合し受容体との結合を阻害することでその活性を調節するタンパク質です。TGFβ、BMP2,4,6,7、ミオスタチン、GDF11に作用します。GDF9は卵巣内で合成され、卵子の発育に関与し、TGFβファミリーのひとつです。

 

コメントでは、本論文のデータは、卵子のIVA(in vitro activation)を行う際に必要な条件を決める上で極めて重要な研究であるとしています。現在のIVAの問題点は、巨大な極体(Pb)の出現とわずか1%しか卵子ができないことです。一方、本論文の方法では極体も紡錘体も正常な大きさです。今後はAMHのオートクライン機構を用いた研究が進むのを期待すると共に、卵胞同士のコミュニケーションを解明する手がかりになって欲しいとしています。

 

本論文は、3D卵胞培養法を確立したオレゴン州のグループからの報告であり、下記の記事の第2報です。

2017.12.11「二次卵胞発育に必要なもの