初回および2回目の新鮮胚移植における前周期スクラッチの効果は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、初回および2回目の胚移植における前周期スクラッチの効果についての多施設ランダム化試験の報告です。

 

Hum Reprod 2019; 34: 92(フランス)doi: 10.1093/humrep/dey334

要約:2010〜2014年にフランスの3箇所の施設で初回および2回目の新鮮胚移植を実施する方358名を対象に、前周期黄体期にスクラッチ(ピペール使用)を実施する方としない方のランダムに2群に分け、妊娠成績を前方視的に検討しました。結果は下記の通り(いずれも有意差なし)。

 

スクラッチ    なし    あり

周期数     64周期   68周期

臨床妊娠率   35.9%   23.5%

着床率     24.0%   19.1%

流産率       0%      1.5%

子宮外妊娠率    1.6%     1.5%

多胎妊娠率   20.0%   50.0%

 

なお、スクラッチ実施の80%の方は実施中に痛みを感じていました。

 

解説:スクラッチ効果の有用性については賛否両論があります。2018.10.13「スクラッチの効能:メタアナリシス」でご紹介したメタアナリシスでは、胚移植2回以上不成功の方で、新鮮胚移植の際に、移植前周期の黄体期に2回スクラッチを実施した場合に最も効果が高いようです。本論文は、初回および2回目の胚移植における前周期スクラッチの効果はないことを示しています。

 

いつもブログで申し上げておりますように、医学のエビデンスは日々更新されます。反対派と賛成派が論文を出し合い、最終的な結論が生まれます。その途上では確かなエビデンスはありません。妊娠治療は特にその傾向が顕著に現われますので、日々英語の論文に目を通し、知識のアップデートが欠かせません。私のブログも古い記事は新しい記事に徐々に更新されて行きますので、是非とも最新情報を信じるようにして欲しいと思います。

 

下記の記事を参照してください。

2018.10.13「スクラッチの効能:メタアナリシス

2013.12.25「☆スクラッチング法