抗FSH-R抗体陽性者のPOI | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、POI(Primary Ovarian Insufficiency)かつPAS(Polyglandular Autoimmune Syndrome)についての症例報告です。

 

Fertil Steril Rep 2020; 1: 206(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2020.09.002

Fertil Steril Rep 2020; 1: 171(米国)コメント DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2020.10.003

要約:25歳、POI、PAS type 2、AMH 4,3、FSH 40〜60、LH 30〜40の女性は、1年半無月経でした。患者さん自身には、橋本病と、アジソン病、低E2高FSHを認め、患者さんの母親は甲状腺機能亢進症で、父親の家系に乳癌、甲状腺癌、卵巣癌がありました。AMH 4.3、AFC 20個あり、初回採卵周期では、エストロゲン製剤+HMG150単位+HCG製剤、2回目はエストロゲン製剤+FSH 300単位+HMG150単位+HCG製剤での刺激を実施しましたが、卵子は採取できませんでした。3回目は、抗FSH-R(受容体)抗体陽性の可能性を念頭に置き、ステロイドホルモン(プレドニゾロン 40mg)を併用しつつエストロゲン製剤+テストステロン製剤+FSH製剤300単位+HMG製剤150単位+HCG5000単位を用いて採卵を実施したところ、36個の成熟卵を確保することができました。

 

解説:POIの中にはいくつかの種類がありますが、ROSResistant Ovary Syndrome)は、E2低下とFSH増加、AFC多数を呈する状態です。AFCは多数ありますので、排卵すれば問題ありません。一方、PAS(Polyglandular Autoimmune Syndrome)は、10万人に5人の頻度の稀な自己免疫疾患であり、副腎機能低下の他に、甲状腺疾患や1型糖尿病の合併がしばしばみられます。本論文の患者さんは、ROSかつPASであり、ステロイドホルモン併用が奏功した症例報告です。

 

PASには4つのサブタイプが存在し、PAS1は先天性、PAS2はアジソン病+他の疾患、PAS3は1型糖尿病+自己免疫性甲状腺疾患、PAS4はその他のものに分類されます。成人型のPASは若年性のPASよりも多く、高FSH低E2が5〜10%に認められます。卵胞が見えるにも関わらず卵巣の反応が低下している場合をROSと呼びます。ROSには抗FSH-R抗体陽性が関与することがあります。本論文は、ROSかつPASかつ抗FSH-R抗体陽性の疑い症例に対して、ステロイドホルモンの一時的な大量投与により、卵胞発育を促し採卵できた症例報告です。

 

コメントでは、あくまでも疑い症例であることを力説しています。確かに、自己免疫疾患をお持ちの方は複数の自己免疫疾患を合併することがあり、このような症例の存在を念頭にぷべきですが、ステロイドがPOI(ROS)全ての方に適応する訳ではないとしています。

 

略語については、下記を参照してください。

POI(Premature Ovarian Insufficiency、早発卵巣不全、早発閉経、POF):40歳未満で1年間無月経、高FSH、低E2、AFCゼロかごく僅か

DOR(Diminished Ovarian Reserve、卵巣予備能低下):ボローニャクライテリアに基づく卵巣刺激で低反応、AFCゼロかごく僅か

ROS(Resistant Ovary Syndrome、ゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群):無月経、高FSH、低E2、AFC多数あり

 

下記の記事を参照してください。

2020.1.7「早発卵巣不全に対するIVAとLOI:ビデオ論文

2020.6.10「早発卵巣不全のMCM9遺伝子変異

2019.12.14「STAG3遺伝子変異による精子形成過程における減数分裂停止

2019.12.12「PRP療法について:オピニオン

2018.3.23「☆卵巣から卵原幹細胞を分離し卵子を作る技術

2018.3.17「☆加齢により卵胞発育が低下するのはLH高値が元凶?

2016.5.17「幹細胞移植による早発卵巣不全の新たな治療

2015.8.18「卵巣の皮下移植で自然妊娠成立!?

2015.7.13「NGSでPOFの原因遺伝子検索

2015.5.13「☆POF(早発卵巣不全、早発閉経)の発生率

2015.3.27「IVAの進歩

2015.3.26「卵胞発育における男性ホルモンの役割

2014.5.27「早発閉経の遺伝子 その2 

2014.5.14「早発閉経の遺伝子

2013.10.23「☆GDF9遺伝子変異でAMHが減少します