オミがピッチに入ると、ゴール裏の甲府サポは一層エネルギーを増した。

 

甲府にとってオミがどういう存在か。

ずっと甲府を応援しているサポが、今日初めて来たサポにそれを声援で伝えている。

そんな瞬間だった。

 

翌日、会社の同僚が言ってた。

「純烈みたいなオッサンが出てきて、そっからのドラマが凄すぎでしたよね」

 

ちなみにこの同僚、広島出身。

サッカーほぼ興味なし。

 

そうかそう見えるのか(笑)

 

キャプテンの荒木がすでにピッチを後にしていたので、キャプテンマークは副キャプテンの一人である石川が巻いていた。

 

オミが交代で入ってくると、石川はそのキャプテンマークをオミに託す。

オミは今は副キャプテンでもなんでもないのに。

 

石川はオミがキャプテンでCBをやってた頃は大宮や湘南にいて、対戦相手だった。

対戦相手として甲府でのその存在を感じていたはず。

 

オミの右腕にキャプテンマークが巻かれるのは久しぶり。

それも特別な天皇杯の白いキャプテンマークが、決勝のこの舞台で。

 

泣くわ。そりゃ。

 

あと残り8分。

正直耐えるだけの展開。

 

これはその時の記憶だから定かじゃなんだけど・・

 

オミは一瞬だけどCBの前にポジションしてボールを受けた。

低いけれど去年の可変ポジションの感じ。

そこで受けたボールを相手に囲まれてファウルをもらったか、クリアしたか。

なにしろ、この試合の後半から延長にかけてほぼなかった、キープのプレー。

 

守るってこういうことだろ。

時間を使うってこういうことだろ。

 

そんなメッセージを若い甲府イレブンに送ったプレーだったように思える。

 

帰ってきて試合映像をみていないので、

もしかしたらそんなシーンなかったかもしれない。

ただの自分の妄想かもしれない。

 

しかしこの後、何度も映像で流されているあのシーンに。

現地で観ていた時は、何が起こったかわからなかった。

いや正確に言うと、信じたくなかった。受け入れたくなかった。

 

 

向こうの広島サポが沸いたこと。

広島の選手がガッツポーズをしたこと。

甲府の選手がひざまずいたこと。

主審が嫌な場所を差して歩いたこと。

 

そして・・

副審がありえない場所に移動したこと。

 

ああ・・

サッカーの神様はやっぱりまだ甲府に微笑んではくれないのか。

広島の悲願の方を選んだのか・・。

 

 

崩れ落ちた。

さすがにこれはもう・・

 

延長後半でのPK献上。

絶体絶命。

 

嫌でも映像でこのシーンは流れるし記事にもなってるけど、あれはシュートではなく、パスだった。右サイドに侵入する選手へのフェザータッチの浮き球のパス。

 

ハンドになって笛が吹かれて地獄のような時間が訪れるが、実はあのパスが通っていた方がもっと地獄だったかもしれない。実際解説の中村憲剛も「でもあれ、通っていたら・・」そう言いかけていた。

 

やっぱり佐藤隆治とは相性が悪い。

遠くからではよくわからないシーンだったので、そのせいにするしかなかった。

その時はそれがオミだとも知らなかった。

自分のまわりでも何とも言えない空気が流れる。

 

だけど一階席からのドラムの音、チャントが始まると、みんな泣きながら歌った。

チカラいっぱいの手拍子をした。

 

キッカーは広島で最もイキのいい、大卒ルーキー満田。

彼のFKの弾道を見たことがあるが、えげつない。

 

赤いユニの河ちゃんが手を広げる。

遠くからだと、あのゴールの幅が意外と狭く見える。

この勝負を決するかもしれない時間を、祈りながら待つ。

 

次の瞬間・・

 

 

 

ボールはその弾道を邪魔され、右ポスト脇に転がっていった・・

河田晃兵の右手がその軌道を甲府の希望に変えた。

 

狂喜乱舞。

まさに甲府ゴール裏は絶叫と声にならない声で尋常の世界ではなかった。

 

これは甲府ゴール裏からでもわかったけど、シュートは完璧なコースだった。

地面スレスレで右サイドネット一直線のパワーショット。

止めたのは河ちゃんの技術ももちろんだけど、奇跡としか言いようがない。

 

サッカーの神様は味方してくれなかった。

だけど現実にいる甲府の神様がそれを上回った。

 

 

この時の河ちゃんのガッツポーズは忘れられない。

みんなが駆け寄り、息を吹き返す。

 

続くコーナーキックを危なげなくクリア。

広島もさすがに落胆はあっただろう。

甲府は逆にこの絶体絶命のピンチを防いだことで息を吹き返した。

 

終わったあと、思った。

もしあそこでPK取られてなかったら、あの勢いの差だと普通に押し込まれて点取られて負けてたかもしれない。

あれがあったからこそ限界を超えていても残り時間を最後まで守れたような気がする。

 

タイムアップ

120分の死闘が終わった。

 

 

記録的には引き分けとなる。

だけどもトーナメント戦ではどうしても勝敗をつけなければならない。

どっちに転ぶかわからない、PK合戦。

ホントいつも思うけど、これで天と地が分かれてしまうのは残酷だ。

 

こうやってみると、広島サポそんなに入ってないなぁ・・。

甲府が入りすぎなのか。

 

PKキッカーを決める円陣が中継で映る。

あとで見た映像だけど、甲府は達磨さんが指名して「ウェイ!」とみんなが答える。

なんという明るい雰囲気。

広島は、誰いく?と監督が問いかけ、その場で決まっていく。

対照的な両チーム。

 

両キャプテンがレフェリーのもとに。

日本一を決するPK戦でオミとササショーのCBコンビがここで・・

ここもニキが負傷してなければオミが立ってないかもしれないよなぁ・・。

感動的な場面。

 

どちらのゴールでやるのかも、コイントスで決まったらしい。

映像で見ると、自陣に向かってササショーが強くガッツポーズしている。

オミは特に反応もしていない。

 

ちなみに、この時甲府ゴール裏はこっちでやるものと信じていた。

なぜなら、報道陣がすべてこっちにいたから。

逆サイドだとわかり、報道陣、重そうなカメラを抱えて大移動。

ありゃ大変だろ・・。

 

さて。PK戦

甲府のキッカー1番手はリラ。

ジェトゥーリオが2番手の時はさすがにマジかと思った。

3番手は凪生

4番手石川

 

全員決めた。

 

河ちゃんは3人目まではノーチャンス。

だけど4人目の、後半終了間際に叩き込まれた川村にリベンジを果たす。

左手で弾丸シュートを止める。

 

 

このPKストップの写真が号外の写真として採用されることになる、伝説の瞬間。

 

さて最後のキッカーは・・

ヴァンフォーレ甲府 DF4 山本英臣

青の列から走っていった背番号4が見えた時には、甲府サポからわけのわからない声やら雄たけびやらで異様な雰囲気になった。

 

自分も

オミ―!と何度叫んだことか。

 

オミがボールをセットしたところから、動画を1分間撮った。

この瞬間にここに一緒に立っていた証拠のために。

 

その動画は永久保存版だな。

ヴァンフォーレ甲府の歴史の1ページを刻む、その1分間が収められている。

手ブレひどいし、自分のかすれ声も入ってるけど。

 

オミはいたって冷静に、左上にPKを叩き込んだ。

キックの正確性は織り込み済み。

誰かほかの選手が言ってたみたいだけど「PKを外したことを見たことがない」

 

だけども、自分は知っている。

オミのPKは(キッカーから見て)左に蹴ったことしか見たことがない。

 

いつかのリーグ終盤のアウェイセレッソ戦。

逆転ゴールとなる大事なPKをオミが蹴った場面も左だった。

「あの時もオミで外したらしょうがない」ってくらいのシビれる場面だった。

 

それから何度も大事な場面でのPKを見てきた。

そのどれもが左だった。

 

そして今日も。

 

 

絶対の自信があるのだろう。

今日のあのコースは、オリバーカーンでも、クルトワでも、ノイアーだって防げないと思う。

 

だけど・・

何年か前の韮崎の練習場。

全体練習後の個人練習の時間。PKスポットのところにオミ、キーパー役にジョニー。

聞いてしまった。

 

オミ

「オレ、右に蹴るPK苦手なんだよね」

 

若杉くん(通称ジョニー)がそれに答えていた。

「オミさんでも苦手なものあるんですね」

 

そのあとしきりにオミは右に強く蹴るPKを練習していたけど・・

たしかにしっくりきてなかった。

 

「やっぱダメだこっちは」

 

なので。

自分がキーパーだったら方向だけは当てられたかも(笑)

 

 

最後にオミが決めて甲府優勝。

こんなドラマでもベタなストーリー、よく描けたな・・。

 

信じられない。

天皇杯だよ。日本のサッカークラブの頂点だよ。

ACLだよ。賞金1億5000万円だよ。

 

ホント信じられない。

 

こんなのさぁ・・

 

現実なのかよ・・。

 

これ自体はよくある写真の構図だけど、乗っかってるのヴァンフォーレ甲府だよ?

毎週末応援してるおらが町のチームだよ?

全員知ってる選手だよ?

 

そんなことある?

 

もうそこからは、ツイッターのTLも大変なことに。

昔甲府に在籍した選手

これまで勝ってきたチームの選手

全然カラミはないけど感動した選手

J2他チームの公式

山梨県内の企業

海外の反応

 

あげたらキリがない。

 

河ちゃんのインタビューが最高だった

「このクラブには、長年支えてくれている山本英臣という選手がいて、ハンドでPK取られたのが彼だったので、このまま終わらせるわけにはいかないと思って。無我夢中でした」

 

よく試合直後にこのセリフ出てくるな・・。

作家が書いてるだろ(泣笑)

 

第102回サッカー天皇杯 優勝 ヴァンフォーレ甲府

 

来年の甲府のユニには★と、袖に天皇杯WINNERSのエンブレムが付くことになる。

 

どうすっか。

今年はリーグ戦全然勝てないから、ヴァンフォーレ貯金溜まってないんですけどねぇ。

 

1億5000万でサポにユニを奢るってどうですか?

フロントさん、今大変なんだろうな・・。

 

「甲府サポの幸せな1日」

長くなったけど、正直まだ書きたいことがたくさんある。

それくらいサイッコーな日になりました。

 

ホントありがとう。

ヴァンフォーレ甲府。

このチームを応援してきて本当によかった。

 

2022年10月16日

 

これから10月16日を山梨県のみ、祭日にしませんか?

あと、専用スタジアム、ホント作りませんか?

 

今日のゴール裏のエネルギーは、何物にも代えられない。

サッカーには夢がある。