吉川団十郎
田舎者


訛のある言葉は、時としてこわばり、ささくれがちになりがちな、私の心持ちを弛緩させ、その荒立ちすらも、いい凪に変えてしまう。

「今年、山豊作だがら熊あんまり出てこねべい、ほれ、山ぶどう、いっぱいおがったがら、ジュースだげでなぐ、ジャムだのにしたの、あんだ時間あるんだったら、うぢで飲んでがい味見してがい」なんて、近隣農家のオバアの口からのたりゆるりと流れ出す言葉の方が、電波、NET上のそつなく立て板に水にまくしたてられる標準日本語より、私にとっては遥かに信頼するに足る。

日本語に限ったことではない。

伊太利各地の訛、ウクライナ訛の伊太利語、ベンガル訛の英語、スリナムのタキタキ、パプアピジン、マグリブ訛の仏語、Spanglish、インド各地訛の英語、ロシア訛のヘブライ語、Jamaican English、ブラジルポルトガル訛のスペイン語、広東語訛の北京語、、、、、、厖大な言葉を耳にしてきたが、とにかく訛を聞くと、この上なくほっとさせられる。

訛はその人の正直の度合い指し示すしるべにちがいない。

また訛とは、方言に付き物のそれとしてだけでなく、その人ならではの言葉癖、考えたり書いたり喋ったりするとき等の特色という意味でも、私は使いたい。

もっとも電波上ともなると、訛のさらけ出し方があざと過ぎる御仁が見当たらないわけではないが、『火宅の人』の中の言い回しにならっていえば、訛が強い芸人の中でも、吉川団十郎氏は実に《天然の旅情》に忠実な人だ。

今朝の河北新報(平成19年11月2日号)によれば、還暦を前に、ギター墨汁筆一本をぶるさげて、その吉川氏が全国行脚に間もなく出かけるという。

ご存知ない方が多いと推察されるので、氏についてふれておく。

’70年代前半、さすがに私はまだ幼児だったので記憶がほとんど残っていないが、仙台でラジオのパーソナリティとして頭角を現し、『ああ宮城県』の大ヒットで全国区に踊り出るも、あっさりとその地位をうっちゃり、電波上から姿を消した。

その後、スナック経営、陶芸、水墨画等でしたたかに、宮城県南部の山間部で生計を営んでおられたようだが、近年、多くの人々の要請に応え、ラジオのパーソナリティとして復活した(TBCラジオ『葵と団十郎のサンデーAMO』 2005年10月~2007年3月まで放送)。

ラジオのパーソナリティに返り咲き、そのまま晩年をのらりくらりと楽隠居と思いきや、大御所の安楽椅子に座ることをいさぎせず、《天然の旅情》に従うところが、吉川氏の凄いところだ。

そして、氏は、熊楠、山頭火、尾崎放哉、足穂、賢治、金子光晴、草野心平のように、いくら苦難の総合商社のような人生を歩んでも、自分に正直な人は、とどのつまり、実のところ馬鹿をみないことを、身をもって知らしめてくれているように思える。

人生、藝ひとつあれば死ぬ迄どうにかなるということを、吉川氏は、全国津々浦々で教えることになるだろう。

AKIRA、高橋歩、須田誠らとともに今後も敬服していきたい人だ。




エディ山本, 岩切みきよし, 蘭, 芝田洋一, 岩村実, 山崎朗, 吉川団十郎, CHAGE&ASKA, 天野滋, 鈴木一平
ポプコン・スーパー・セレクション ボーイズ・コンピレーション


田舎暮らしができる人できない人 (集英社新書 388H)/玉村 豊男

¥672
Amazon.co.jp

丸屋米子のパッチワーク仕事―パッチワークの醍醐味 憧れの田舎暮らしも満喫!/丸屋 米子

¥1,680
Amazon.co.jp

旅のつづきは田舎暮らし―僕とカミさんの定年後・南会津記/岡村 健

¥1,470
Amazon.co.jp