最新版 日本の名酒事典

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大学に進むとまだ戸籍上は早生まれの十八になりたてではあったが、極東の領土領海上では御法度でも、以前にまして大っぴらに酒が飲めるようになり、シュトゥルム・ウント・ドラングというより、シュトゥルム・ウント・ドランクと呼んだ方がよいような時代が始まった。

アナログレコード道楽のためでもあったが、無料でより多くの酒や酒菜を嗜むために、わざわざ大皿総菜の居酒屋などで、しばらくの間、ろくすっぽ講義などに出ずに仕込みから閉店までのバイトに明け暮れたほどだ。

当時は、瓶老酒トニック割り、青島睥酒、サンミゲール、ターキーあるいはハーパーソーダ割り、タンカレー、ゴードン、ズブロッカ、マイヤーズ、コロナ、レッドアイ、泡盛などを好んで嗜んだが、徐々に酒の醍醐味を思い知らされた。日本酒だけは、どうも過ぎると宿酔が他の酒と比べて激しく、その後もどうもあまり体になじまなかった。いまでも嗜んだとて、一二杯がせいぜいだ。

吹き出物のような懊悩にまがりなりに取り憑かれ、梶井基次郎の短編まがいの、なんだが得体の知れないやりきれなさ、底知れぬ不安にさいなまれて、しばしば酒が過ぎ乱れ、実際、虎箱にお世話になったのは一度切りだが、虎になった。

終電間際、井の頭(ヘッド)線と東横線を間違えて乗り、気がつくと元住吉駅で朝を迎えたていた、鳥居、電柱柱によじ登るなんてえのは序の口で、徒党を組んでいた連中と、「JALで行く夏の旅!!」を連呼しては砂浜でストリーキング、丁髷、むささび、むかごなんていう逸物芸を披露したり、あの頃のとにかく酒精に乱された挙げ句の果ては、至極不様なもので、とてもとてもこれ以上は、恐縮したって、つまびらかにできるものでない。

公にしても差し支えないレベルの酒の上でのしくじりから、忘れ難いものをいくつか選べば、まず挙るのが、その筋の人たちとの大宴会後の失態だ。

余興で、溲瓶まがいのピッチャーで、「ビールのバキューム飲み対決」を朋友らとやらされる羽目になったのだが、かなりの量を飲む事になった。

3リットル以上は飲んだろうか、熱帯夜であったので飲んだそばから、ある程度は汗になるから、始終憚りに駆け込まなくてはならないような事態には至らなかったが、仕舞いに腹がはち切れんばかりのビール袋になって、ドプリ、チャプリ、ジャブリと音を立てるのであった。

大宴会の後は当然二次会、三次会ということで、下北沢から吉祥寺、三鷹方面へ移動と相成ったが、とある一家の頭のメルセデスに乗せられたのが、どうにもいけなかった。

車の運転振りが途方もなく傍若無人だから、荒波へ向って繰り出した漁船の上にいるようなものだった。

たちどころに、激しい船酔いの症状に見舞われたのはいうまでもなく、粗相は決してならんとしばらくこらえにこらえたが、とうとう辛抱治郎袋の結び目がほぐれて、車を止めてもらうことを申し出たが間に合わず、後部座席から出るか出ないかのところで大噴出。それから先は大騒ぎになったことだけは覚えているが、記憶がまるでない。

後日、頭の邸宅を当時の朋友とともに菓子折りを持って音連れたが、心機一転、頭をスキンヘッドにしたのが効を奏したのか、思いのほか、苦しゅうないといわんばかりに、頭はご機嫌で、平身低頭するだけで無罪放免となった。

いかなる処遇も覚悟の上だった、こちらとしては頗る拍子抜けがしてしまい、素面では真顔で直視できぬ、頭の鎌ヶ谷大仏のような風貌を間のあたりにしていたから、なおさらだったのか、うっかり表情筋だけでなく、括約筋までほぐれゆるんで、大腸のおくびがふんだんにすかし出た。

<続>


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