~崩壊~


 レマお姉さまたちが森の向こうに姿を消してからどれくらい経っただろう・・・・・・。


 村の人たちは長老をはじめ多くの人が村へ残ることを決めていた。

 赤ちゃんや幼い子供たちを持つ家族は村から離れることにしたようだ。


 長老さまに村を見捨てて行く自分たちを許してほしいって泣いていたけど、生き延びる事を選ぶのも間違った選択じゃない。

 腕に抱えられた子供たちは怖い悲しい思いをしないところで生きていってほしい・・・・・・。


 村を離れる家族の人たちは兵隊さんたちが用意した車に乗って、兵隊さんたちと共に夜の道に消えていった。


 私は・・・・・・。

 私はここでレマお姉さまたちを待つ。


 


 長老さまのお家の裏にこの村の守り神、アヌの象がある。

 とても重大な願い事や婚礼の儀式などが行なわれる神聖な場所だ。


 私はアヌの象の前に行き、レマお姉さまたちの無事と村の平和を願おうと思った。


 

 ・・・さっきまで続いていた怖い音がやんだようだった。


 戦いは終わった・・・・・・?

 でもここからは状況が分からない。

 村の人たちがざわつき始めた。


 ゴゴ・・・・・・

 バキ、バキッ!

 地面を伝わる振動。森の木々が倒されていっている・・・・・・。


 何か近づいて来てる?


 それは所々窓から光が漏れている黒い大きなものだった。

 ゴゾンの戦車だ。

 その周りにはたくさんの人型の機械がいた。

 ゴゾンの軍がとうとう村にまで侵入してきたのだ。


 村の広場に鼻先を突っ込んできたお城のように巨大な戦車からゴゾンの兵隊たちが降りてきた。

 戦闘を歩いているのはおそらく指揮官だろう。


 「私はゴゾンの東部制圧部隊第12師団の指揮官ドアーゾだ。この村の代表と話しがしたい」


 冷たい顔。

 あれが町を焼いてきたこの兵隊たちの中で一番偉いヤツ・・・・・・。


 「・・・レマたちはどうしたんだ・・・・・・」


 村の人たちがお姉さまや神の象のことを口にした。


 「途中思わぬ抵抗があった。この村では”神の像”と呼ばれるマシーンらしいが・・・・・・」


 ドアーゾが何かを呼ぶように手を振った。

 人型の機械が暗闇から村の中へ姿を現わした。


 その手にあったのは・・・・・・。

 レマお姉さまの乗っていた神の像の首だった・・・・・・! 


 お姉さま・・・・・・!

 お姉さまたちが・・・まさか・・・そんな、まさか・・・・・・!


 「あんなカビの生えたの骨董品で、我々の最新式の兵器に太刀打ちできると思っていたのか」


 ドアーゾは冷たく笑った。


 絶望感がその場を支配した。


 「・・・ルクシェ」


 まだゴゾンの兵隊たちに気づかれていない長老さまが側にいた私に声を掛けた。


 「・・・はい、長老さま」


 怒りと悲しみに震えながら私は答えた。


 「お前は村を出て、生き延びよ」

 「え・・・」

 「お前は元々この村の者ではない、我らと共に果てる必要はない」

 「そんな・・・今になってよそ者扱いですか!?」

 「そうではない。わしもお前の父と母と同じようにお前を愛したつもりじゃ。だから生き延びてくれ。これは長老としての命令でもあり、わしからの願いじゃ」

 「長老さま・・・!」


 「オキサ、ルクシェをたのむ。そしてアヌの像をな」


 オキサお姉さまは長老さまの身の回りのお世話をしていた方。


 「承知いたしました。・・・ルクシェさま」


 オキサお姉さまは長老さまの衣服を掴んでいた私の手をはずすと私の肩を抱えるように村の人たちの集団から離れた。


 兵隊たちに気づかれないように私をアヌの像の側の茂みに隠して・・・・・・。


 「お逃げくださいルクシェさま。できるだけ早く遠くへ」

 「待って、逃げるならオキサお姉さまも一緒に・・・!」


 オキサお姉さまの腕を掴んだ。


 しかしお姉さまは微笑みながら私の腕をはずし・・・・・・


 「私はこの村と運命を共にします。それに長老さまに最後の仕事を託されました」

 「オキサお姉さま・・・・・・」

 「ルクシェさま・・・私はあなたを本当の妹のように愛しく思っておりました。ですから私の分もどうか生き延びてください」

 「・・・・・・」

 「さあ早く。・・・プォルカの神のご加護を」


 オキサお姉さまは私の額に口付けをして、私を押し出すように森へと向かわせました。


 「お姉さま・・・長老さま・・・・・・」



 私は泣きながら森の奥へ駆け出した。



 アヌの村では・・・。

 

 「この村は中央を攻める足がかりとして、我々の中継基地とさせてもらう」

 「その必要は無い」

 皆の前に出る長老。


 「長老さまのお出ましですか」

 「その汚い機械はこれ以上この村には入れぬ。我らと共に滅ぶがいい」

 「ふ・・・何を・・・」

 「オキサよ!!」


 長老の声にアヌの像の足元にいたオキサが石のスイッチを押し込み作動させる。


 ゴゴゴ・・・・・・。


 「何だ・・・地震・・・?おおっ!?」


 アヌの像の足元が崩れ、像は村の中央・・・ドアーゾや長老たちのいる方へ倒れていく・・・・・・。

 ズズ・・・ン!

 大きな音と土ぼこりを巻き上げ崩れ落ちる像。

 直後、像から閃光が放たれ・・・・・・。


 ゴゴーーーン!!


 大爆発が起こった。



 ゴゴ・・・ン!

 私がその大きな音を聞いたのは森を抜けて小川を進んでいた時だった。

 村から上がる大きな黒い雲・・・・・・。


 「長老さまーーっ!!」


 そして私は帰る場所を失った・・・・・・。



 ~つづく~