剣竿一如 -20ページ目

愛咬

  大好きが昂じてナメナメ、チュッチュでは足りず、「カプッ!」っと咬むのが愛咬。一般には「甘噛み」と言われてますな。人間はもちろん(いや、自分はしないが……)、仔猫や仔犬なんかもよくやるんだが、フェレットは激しく咬む。最初は 「好き好き~」 と指や手をナメナメしているンだが、次第に 「うぅ~、大好き、大好きよ~!」 と歯を当て始め、我慢しきれなくなって 「ウキャキャー! 大大大好き~ッ!」っとなってガブチ~ンとくる。 

 このガブチンが痛いったらない。大の大人でも 「痛ッテ~ッ!」っと声を出しちゃうくらい。なにしろ気分が高揚してくると、ブンブンと首を振って、血が滲むくらいの力で咬むモンだから、噛み癖の矯正躾は必須。首根っこを猫掴みして、「ダメ、咬んだらダメ!」っと床を引き回す。これは虐待でも何でもなく、フェレットが力関係を決める際の行動で、引き回された方が格下。やっぱね、言葉も理屈も通じない相手には、力による上下関係、支配関係、すなわち主従関係をキッチリさせとかにゃ。

 我が家の愛鼬ゲンは叱ると、「なんで怒ってるン?」ってな顔をする。それでも力関係は薄々わかってきたようで、「咬んでないよ、歯をあてがっただけ」「咬んでない、咬んでないって。くわえただけだってば!」ってな顔をするようになった。まぁ、この様子だと微塵も反省してないんだが(笑)。

 犬だったらこんな事は許されない。キャンと言うくらいひっぱたかれて、厳しく躾けられちゃうね。その点、猫やフェレットはキャラクターで得をしている。ワガママでチョットおバカなのが魅力、なんて言われてるからね。あぁ、人間にもそんなキャラがいるなぁ。得してるのか、損してるのか知らないが、人の親になってもバカで通ってるギャルママ芸能人とか、海外のマスコミに「ルーピー」と呼ばれ、自分でも「愚かかもしれない」なんて言い放っちゃう一国の総理大臣ってのはスゴイね。昔の人はそういうのを、「厚顔無恥」って言ったンだけどね(笑)。

蚊帳

 まだ蚊が出てくる心配はあまりないンだが、フェレットやイヌを飼っていると、関東以西の地域では4月末頃から、フィラリアの予防薬をペットに与え始めているはず。フィラリアは蚊が媒介する寄生虫で、心臓に巣くう恐ろしい寄生虫病。予防薬で防げるので、飼い主がしっかりと管理していれば、過剰に心配しなくても良いんだが、お薬だけで完全に防げるとは限らない。できれば蚊に刺されないようにしておきたい。

 イヌの場合はフィラリアにやられても、駆虫手術で一命を取り留めることも可能なんだが、フェレットの場合は血管がフィラリアの成虫よりも細いため、感染したらすでに致命的。予防しか対処法がない。そんなわけで、我が家では5月中旬から就寝用ケージを蚊帳で覆っている。

 人間様が使うような大きな蚊帳は必要ないんだが、小動物ケージ用なんてェこじゃれたシロモノは無い。イヌ用はあるんだが、我が家の室内に置くには大きすぎるし、15,000円くらいしてとても手が出せない。てか、お金も出せないんだが……。あれこれ考えた末に、玄関用のカーテン網戸でケージを覆うって手を考えついた。これならホームセンターで980円。安いから1シーズン(5月~12月初旬)で使い捨てにしても惜しくない。

 ケージの天井部分にフェルトのシートを貼り、カーテン網戸に付属のマジックテープで固定、下部は洗濯バサミでケージに固定。これで蚊の侵入はシャットアウト。多少不格好だが、ペットはそんな事ァ気にしませんからな(笑)。ってなワケで、今夜もゲンは蚊帳に覆われた就寝用ケージでスヤスヤと眠っている。

 金が無いなら知恵を出せ。知恵が無いなら汗を出せ。金も知恵も汗も出せないヤツぁ、いずれ泣きの涙を出す羽目になる。それがこの世の定めってモンですな。

形見

 我が家に召し抱えて4日目を迎えたゲン。「ンクク、ンクク、ンクククククククッ!」 と嬉し鳴きしながら、ピョコタンピョコタンと跳ねるフェレットダンスを踊り、部屋中を探索するのが日課。それでもようやく我が家の環境に慣れてきたらしく、ほんのチョッピリだが行動に落ち着きが見られ始めた。やれやれ。チョイとばかしキツイ甘噛み癖は、まだ治っていないンだけどね。自分の手や腕は、ひっかき傷と甘噛みのみみず腫れで凄い事ンなってます(笑)。

 で、そんなゲンが仕事部屋のソファの下に潜り込んで出てこない。「ゲン、ゲ~ン。出ておいで~」 と呼び続けていると、黒い固まりをくわえて出てきた。一瞬、ネズミでも捕まえてきたのかと身体を硬くしたが、よく見ると固まりの正体はイルカのぬいぐるみ。5年前、チャオに初めて買い与えたオモチャだった。

 フェレットはお気に入りのオモチャを宝物として隠す習性がある。チャオのヤツ、こんなところに隠していたのか……。チャオにはイルカの他に、タヌキ、カバ、子鹿、恐竜などのぬいぐるみを与えていた。それらはチャオの亡き後、庭先で焼いてチャオの元に送ったのだが、イルカだけは見つからなかった。チャオのヤツ、いつもの宝物の隠し場所以外に仕舞い込んだもんだから、イルカのぬいぐるみの存在を忘れちゃったらしい。

$剣竿一如-イタチのゲン07 イルカのぬいぐるみは、少しほこりがくっついていたが新品同様の状態。ほこりを落として洗濯し、乾燥機で乾かしてゲンに与えると、「ンクッ!」と一鳴きしてケージの隅っこに運んでいった。ゲンよ、それはチャオの置き土産だからな。大事にしろよ。

 それにしてもチャオよ、おまえはスゲェよ。ちゃんと自分の存在した証を、ゲンに遺し示しおるかよ。おかげで笑顔で大粒の涙を流す事に……、なっちまったじゃないか。おまえの宝物は形見として、ちゃんとゲンが受け継いだからな。

屈強

剣竿一如-イタチのゲン03 新参家臣フェレットのゲンを健康診断に連れていった。体重1.1kg、体温38.7度、触診、聴診、検便ともに問題なし。耳ダニもついておらず、皮膚や被毛にも問題なし。体格、骨格ともに優れ、屈強な若鼬とのお墨付きがもらえた。ウンチが少し軟便傾向なんだが、これは召し抱えたばかりで、まだ環境に慣れていないため。チョイとばかしストレスになっているからだそうだ。まだ2日しか経ってないモンなぁ。ともあれ、健康状態は万全である事を確認し、フィラリアの予防薬を出してもらってきた。来週にはジステンパーの予防ワクチン(三種混合)の接種だ。

 ゲンは凄まじい勢いではしゃぐ。チョコマカ、ピョンピョンなんてレベルじゃない。ズドドド、ドッタンバッタンと暴れ回り、少しでも隙を見せると飛びついてきて、しがみつくわ、甘噛みするわで、萌え死にそうなほどカワイイんだが、とにかく何をするにも激しい。甘噛みと書いたが、実際は腕が傷だらけ。時には血が滲んだりするくらい噛む(笑)。水飲みもウォーターボトルの飲み口を喉の奥まで突っ込んでしまうし、フードもバリバリと食べまくる。一夜にして、階段を駆け登って2階の部屋で遊ぶ事まで覚えてしまった。慣れない環境で超ハイテンションのアゲアゲ状態。これはあまり良いことではないので、今日はケージの中にいる時間を増やしておいた。フィラリアの予防薬も飲んでるしね。

 ゲンにも先輩ペット達と同じく、生涯を懸けて癒しと和みの忠義を尽くしてもらいたい。こちらも主として惜しみなく愛情を注ぎ、しっかりと躾け、尽忠に報いてやらねばなりませんね、ってお話でした。

 あ、ペット保険のアニコムにも加入しましたよ。傷病時の治療費の半額が保障されるので、犬・猫・ウサギ・フェレット・鳥を飼う場合は入っておくと良いかも。元が取れちゃ困るけどね。

新参

 朝方、サヨリ狙いで釣りに出掛けたものの、アタリもカスリもしないパーフェクト坊主を喰らってしまった。運の巡り合わせの悪い時ってなァ、何をやってもダメなのが人生ってヤツです。

 意気消沈して帰宅したんだが、チャオが天に帰ってしまって以来、家の中は灯が消えたような状態で、寂しいやら切ないやら……。魚が釣れないくらい、屁でもねェってくらい寂しい。とは言え、いつまでもショボくれているわけにもいかない。せめてペットショップのフェレットでも見て、気持ちを和ませようと、家内と一緒にフェレット専門店へ。この専門店は入店時にマスクを着用、手をアルコール消毒。客だろうがスタッフだろうが、徹底していて安心できるね。

 で、このお店で現在扱っているのは、ファーム産のリアルカナディアン・フェレットと、自社で交配繁殖させたショーブリード・フェレットがいる。ショーブリードのフェレットを見たのは初めてなんだが、体格、骨格の違いに魂消た。ファーム産のフェレットより5割~8割は大きい。抱っこさせてもらったんだが、首から腰に至る筋肉がスゴイ。それと四肢の太さ、アゴの逞しさもファーム産のフェレットの比じゃない。ガチムチのマッチョ鼬(笑)。ちなみにお値段は12万円~16万円とファーム産フェレットの3~5倍。現在、購入まで1年半待ち。でも、大枚はたいて待てでも、家臣として召し抱えたい剛の者です。

 チャオは米国パスバレーファームのフェレットだったんだが、リアルカナディアンはその名の通り加国のファーム産。ショーブリードには及ばないが、パスバレーに比べて二回りほど大きい。その中の1月15日生まれ、シャンペンカラーのめちゃくちゃ元気なオスを抱っこさせてもら……、もうダメだ。チャオと初めて出会った時と同じシチュエーション、しかも似たような毛色。チャオを思い出して涙がジンワリ。折良くだか、折悪しくだか、お財布には7万円の現金が!

 「あの、このフェレット、おいくらですか?」

 「この子は4万2千円です。
  もうベビーではないので、クーポン2万1千円付けます」

 「こちらで2万1千円分のお買い物ができるわけ?」

 「生体購入には使えませんけど、実質50%割引です」

 「ん~、どうしよう……」

お店の隅っこで家内とヒソヒソ相談。

 「なぁ、このフェレットを家臣として召し抱えたいんだが」

 「え~、ちょっと大きくない?」

 「チャオも生後3ヶ月くらいで迎えたんだぞ」

 「そう? でもさ、家に帰って一晩よく考えようよ」

 「そうだな。今日はキャリーも用意してないし……」

そんなこんなで一旦お店を出て駐車場へ。

 「なぁ、クーポン2万1千円って言ってたよな。
  フードもリターも半年分以上買えちゃうぞ」

 「う~ん、それはそうだけど……」

 「出直してくるのも面倒じゃん」

 「それもそーだね。お店に戻ろっか!」

 かくして、我が家に新参の家臣が仕えることになった。段ボール製の簡易キャリーに入れてもらい、連れて帰ってきました。我が家に到着して部屋の中に放してやると、部屋中を探索しまくり。走りはすばしっこいし、ジャンプは高い。名前は「ゲン」と命名。元気の元です。

 チャオよ、おまえに導かれてフェレットショップに出掛け、ゲンと出会えたよ。良き家臣を召し抱えられて嬉しいよ。ありがとうな、チャオ!$剣竿一如-イタチのゲン01
$剣竿一如-イタチのゲン02

苦闘

 今月は愛鼬のチャオは天に帰ってしまうわ、お仕事関係で悪い話が続くわ、PCは調子悪くなるわで、散々な月なんだが、自分の力で何とか出来そうなことから片付けていくしかないわけで、白髪混じりの髪の毛を逆立てながら、悪戦苦闘の日々を送ってます。

 お仕事関係の悪い話は相手のあることだから、自分の努力ではどうにもならん事も多いんだが、PCの調子が悪いってのは、それなりに対処のしようがある。起動時に黒いBIOS画面からWindowsXPのロゴマーク画面が表示された後、何も表示されない真っ黒の画面になってフリーズしてしまう、ってな不具合が発生。電源ボタンを長押しして強制終了し、電源を再度投入すると、セーフモードで起動するか、通常起動するかの選択画面が表示され、ようやく起動するんだが、PCの起動に毎回10分以上も掛かったんではたまらない。システムの復元を使ってまともに起動していた頃に戻してみたが効果なし。ディスクのエラーチェックでも問題なし、デフラグを行ってみても効果なし……。

 こうなったらアレコレ考えているよりも、必要なデータをバックアップしておいて、ズバッとOSを再インストールしてしまうのが一番手っ取り早い。メールアカウントにアドレス帳、メールボックス、ブラウザのブックマークなどをサブのドライブにバックアップ。必要なバックアップデータの一覧をチェックしながら、漏れがないか確認しておかないと、後ではどうにもならなくなるから要注意だね。プリンターやらマウスやらキーボードやらのUSB機器もすべて取り外し、入力デバイスのマウスとキーボートはPS/2ポート接続の古い物に換えておく。

 リカバリーCDからPCを起動させてリカバリー開始。仕事柄、毎日長時間PCを使用するハードユーザーなので、メインドライブ(Cドライブ)を完全フォーマット。これだけで1時間。続いてOSのインストール。ここでもおよそ1時間。さて、これでOSの再インストールは完了なんだが、自分のPCはショップブランドマシンをベースにカスタムビルドした、ほとんど自作に近い仕様。リカバリーCDを使えば一発OK、ってなわけにはいかない。チップセットやサウンドカード、ビデオカード、ネットワークアダプタなどの各種デバイスドライバをインストールしなければならない。一つ入れては再起動の繰り返しで、ここでもさらに1時間ちょいを要した。

 いい加減に焦れて苛々してきたが、それでも作業を続けないとオマンマの食い上げになってしまうので、コーヒーを飲み、たばこを一服つけて気分転換。ネット接続の設定を行い、今度はWindowsのアップデートだ。WindowsXPはリリースからすでに8年以上も経っているOSだけに、アップデートの数も半端じゃない。SP2からでも100件以上ある。PCの仕様上、入れちゃならないアップデートもあるので、一つ一つを慎重に見極めながらの作業になる。この間、PCはルーターのファイアウォールとWindowsファイアウォールだけという、ほとんど無防備の状態。真冬の海辺に短パンとTシャツ一枚で出かけたようなモンなだが、全裸よりゃマシだろうね(笑)。なんやかんやで2時間近くかかって、OSのリカバリーとアップデート完了。

 さて、ようやくアプリケーションソフトのインストール。オフィスソフト(ワープロや表計算などね)に1時間弱、画像制作や画像処理や動画編集ソフトに30分強。お仕事で使用する基本ソフトを入れたら、セキュリティソフトをインストールして、アップデートを済ませるのに30分。データのバックアップから始まって、すでに8時間以上経過。あぁ、ゴハンも食べてなかったよ。なんだかもう、うんざり……(´・ω・`)

 家内に頼んで、作業しながらでも食べられるおにぎりを作ってもらい、モグモグやりながら作業続行。なんやかんやで丸一日以上、復旧作業に奮闘していたんだが、不運や御難続きでも、飯を食うと少しは気持ちが持ち直しますね。なんだかんだと悩んだり、憤ったりもするんだが、人間ってなぁ案外と単純な生き物なのかもしれませんね、ってお話です。

 寒いのとひもじいのが、人間最大のストレスだもんなぁ。なにしろ事は生命に関わるんだから。ま、ペットとの別れや、人間関係、金銭関係の悩みもツライが、それもこれも生きていればこそでございます。

自演

 なんつーかね、もう自演なんてレベルじゃねェ、狂言ですな。


で、こうなってェ、
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こんなお芝居もしてェ、
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見られてないと思ったのか、演技終了(笑)。
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 あはははは! 日本は昨日も今日も明日も、今のところは平和ですね、ってお話でした(笑)。

 お先は真っ暗だろうけどな……。

 

演神

 役者モドキをやっていた自分にとって、「神」 にも等しい存在の俳優が市川雷蔵先生。もちろん代表作は 『眠狂四郎』 シリーズ。「斬って悔やまず、抱いて愛さぬ、非情の瞳」ってなキャッチフレーズが、ぴたりとハマる男も惚れる二枚目俳優。残念ながら、’69年7月17日に37歳という若さでこの世を去ってしまわれている。

 時代劇の肝心要である殺陣について、雷蔵先生の作品をじっくりと、それこそDVDが擦り切れる(?)ほど見て真似てみようとしたのだが、カット割りになっていたり、光と影による演出で判然としなかったり、縦位置にカラミ(相手役)が被っていたり、妙にヒキで撮った画が多い。コマ送りのスロー再生で一コマ一コマを捉えながら真似てみたが、なぜかしっくりとこない。自分の力量が全く足りていないのは承知の上なんだが、雷蔵先生の演じる眠狂四郎は、殺陣の基本からは外れている。踏む込みの瞬間や、斬った後の残心の姿勢の微妙な揺らぎ……。これは一般には "下手な殺陣" とされている動きなのだ。

 いや、狂四郎は邪剣の使い手であり、正当な型どおりの剣の使い手ではないのだから、役作りとしてそれで正解だと思う。雷蔵先生の狂四郎は雷蔵先生だけの狂四郎……。だから、どうしても動きがトレースできない。やはり神懸かった演技なのだと感じ入ってしまった。

 この演神・市川雷蔵先生の作品が一挙に100本、 「大雷蔵祭」 として上映されている。時代劇だけじゃない、現代劇もコメディー作品も上映されます。
【大雷蔵祭-公式サイト】
 http://www.dairaizosai.jp/
【大雷蔵祭-予告編】
http://www.youtube.com/watch?v=_EdnahNVy8s

 市川雷蔵という不世出の名優、興味のあるなしは別にして、映画好きなら一作品でもいいから、一度は見ておいて損はないと思いますよ、ってお話でした。

霊園

 天に帰ってしまった愛鼬チャオの身体を、仕事に出掛ける前に家内を連れて霊園で弔ってきた。霊園の事務棟にある受付で小型動物火葬料金1,100円を支払い、霊園の裏手にある動物火葬場へ。通常は火葬炉の右横にある保冷庫に納めるのだが、今日は係員の方がいて、炉の前の祭壇へと案内していた。炉に火が入る日だったようだ。

 この動物火葬場の前が最後の別れの場となる。自分たちの前に一組の家族がいたが、高校生くらいの娘さんが大声で泣きじゃくり、ペットの亡骸を納めた箱を閉じさせない。この霊園では動物火葬のルールとして、亡骸を納めた箱をひもで十字に縛り、万が一箱が倒れても亡骸が飛び出さないようにしっかりと閉じる必要がある。彼女はペットの亡骸を箱に閉じこめるのが嫌で、泣きじゃくっていた。痛いほど彼女の気持ちがわかる。正直、自分だって大声で泣き叫びたいくらいの気持ちでいたのだから。

 エエカッコしいのナルシストオヤジは、こんな場面で大いに損をする。大の大人が、しかもいい歳こいたオッサンが、人前で慟哭などできない。奥歯をグッと噛みしめて、ジンワリと涙を浮かべるくらいしか許されまい。世間は許しても、男としての矜恃が邪魔をする。しかし、祭壇の前にチャオの亡骸を置き、手を合わせた瞬間に家内のすすり泣きの声が聞こえてきた。もうダメだ。ボロボロと涙がこぼれてしまった。それだけではなく、不覚にも 「くぅ……」 と声まで出してしまった。もう矜恃もへったくれもない。さすがに大声で泣きじゃくりはしなかったが、嗚咽を漏らし大粒の涙を流して、今生の別れを惜しんだ。泣くという行為は最高のカタルシスかもしれない。かなり気持ちが落ち着いた。

 畜魂碑(動物慰霊塔)の前に移動し、ここで弔ったシャー、ロン、アビ、ブッチに花と線香を手向け、「今日、チャオをそっちに送ったよ。仲良くしてやっとくれ」 と語りかけ、空を見上げると、チャオの姿によく似た雲が西へと向かって流れていた。なるほど、西方浄土へと駆け出していったか。

 「明日からお天気が崩れるので、東風が吹いていただけだよ」 などと、無粋なことを言うヤツは地獄に堕ちてください。チャオは先輩ペット達に導かれて、正しく西方浄土へと旅立っていったと信じているのだから。異論も反論も認めない。

永訣

「永訣の朝」 

けふのうちに
とほくへいってしまふ わたくしのいたちよ
夏のごとき蒼天が広がって おもてはへんにあかるいのだ
(初夏の風がすいたいです)

ぬけるように蒼く いっそう晴朗なそらから
光はさんさんとふり注いでくる
(初夏の風がすいたいです)

蒼いすみれのもようのついた
このひとつの愛らしき陶椀に
おまへがすいこむ風をとらうとして
わたくしはまがったてっぽうだまのやうに
おまへを抱いてこの明るいそらの下に飛びだした
(初夏の風がすいたいです)

蒼玉いろの明るいそらから
風はそよそよとそよぎふいてくる

ああ ちゃお
天にかへるといういまごろになって
わたくしをいっしょうあかるくするために
こんなさっぱりした薫風のひといきを
おまへはわたくしにたのんだのだ

銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
そらからそよぐ風のさいごのひといきを……

            宮沢賢治「永訣の朝」を改変


チャオ(フェレット)
米国パスバレーファーム生まれ シルバーミット オス
2010年5月4日午前9時30分 胸部腫瘍により帰天
享年5歳