剣竿一如 -7ページ目

口福

 抗ガン剤治療第三クール5日目。物見隊の制吐剤部隊、先陣ペプシド隊、本隊シスプラ隊の攻撃は、微熱、耳鳴り程度のダメージで無事終了。吐き気や激しいめまい、頭痛に悩まされずに済み、食欲不振にも陥らなかった。

 今日の昼食は家内の手作りビーフシチュー。と、言うよりも、牛肉200gをデミグラスソースで煮込んだ、と言った方が早いかな? さらにタマネギ1個、ジャガイモ2個、人参半本が煮込まれ、付け合わせに生パセリ4株と、豆姫さん手作りのスモークチーズ4片。それにパネトーネ生地のクロワッサン2個。もう、「どこのホテルだよ?」ってな勢いの豪華メニューでしょ?

 一口シチューを含んだ途端に、思わず声が漏れてしまった。美味い……。本当の事を言うと、このところ旨味(美味い不味い)はわかるが、塩味、辛味、酸味、甘味、苦味、渋味などの味覚が鈍り始めてきている。当然、嗅覚も鈍っているのだが、今日はハッキリと味も香りもわかった。肉の香ばしさ、デミグラスソースの香気が違う。これでも釣魚料理漫画のメニューレシピ原案を提供した事もある眠釣様だ。家内は笑っていたが、何か手を加えているのは明白。もう、涙が留まらなくなってしまった。

 「??? ねぇ、どした? 熱かった?」 

 「違う。美味い……」

 「美味しくて、何で泣くンさ?」

 「わからんけど、うれしい(泣)」

 「変なの(笑)」

 旨い、美味い、ウマイ、うまい、美味しい、オイシイ、おいしいと食べ進めていたのだが、抗ガン剤治療を受けていると、食事だけでもかなりのエネルギーを消費しているのがわかる。やはり身体の芯が、治療のダメージと対抗するために疲れているのだ。途中で休憩しないと食べ続けられない。首筋に汗が浮き、呼吸もフゥフゥとなってくる。真夏に熱々のラーメンを食っているような感じだ。

 泣きじゃくりながら、休憩を交えながら、昼食を摂った。食べ終えたところでバイタルチェックに看護師さんがやってきた。

 「うわ~、いい香り。おいしそ~なニオイがしますね♪」

 「わかる?」

 「だってまだ、お昼ゴハン食べてないンです(笑)」

 「あぁ~、患者さんの食事配膳、食事介助、それにルーチンワークだもんね」

 「よく知ってますね~(笑)」

 「もう、何ヶ月ここにいると思ってんの(笑)」

 「眠釣さんは抗ガン剤治療中でもシッカリ食べられてヨカッタ♪」

 「ありがとう。でも、ちょっと疲れた(笑)」

 「?」

 「ゴハン食べるとね、食事疲れするんだ」

 「……ッ! 気分が悪いのに、無理に食べてるとか?」

 「違うよ。夏の熱々ラーメン食いみたいな感じ(笑)」

 「ん~、悪い感じじゃないンですね?」

 「うん。むしろ疲れてでも食える幸せ、口の幸福、『口福』 ってのを感じてる(笑)」

 健常者にはどうやっても伝わらないであろう、噛み合わない会話を聞いていた家内が、ケラケラと笑ってましたよ、ってお話でした。

仮想

 アメーバブログのようなブログサービスや、mixiのようなSNSサービスでは、特定の友人や読者にだけ記事や写真を見せたり、非公開でメッセージを送ったり、時にはネットでプレゼントを贈る事もできる。そのプレゼントは現物に限らず、バーチャルなモノだったりもするワケだ。

 自分はすでに50歳を迎えようというオッサン。バーチャルなキャンデーとか、まんじゅうとか、「なんじゃ、その子供だまし……」っと冷めた目で見ていたのだが、バーチャルお見舞い花束、クリスマスキャンデー、正月餅なんかをいただくようになった。なんだよ、メッチャクチャに嬉しいじゃねーかッ!


 これはアメーバブログのアメンバー、”マイちゃん♪”さんから頂いた「癒し温泉」。お気持ちがこもったバーチャルプレゼントに、涙がこぼれてきましたよ、ってお話です。

 仮想世界でも、現実世界でも、心が込められていれば、相手の心にも響くモノなんだなぁ……。

円月

 剣豪小説の”眠狂四郎”と言えば、必殺剣「円月殺法」なんだが、居眠釣四郎は抗ガン剤治療第三クール4日目、ついに顔がむくみ始め、「円月容貌」になってしまった。今までも膝や脛、くるぶし、足などが赤ちゃんの様にプクプクになったりしたが、今回は顔が真ん丸に。50オヤジのアンパンマンだよ、これ……。ちっともカワイクねェし、笑えねェ~(笑)。

 しかし、今日も先陣のペプシド隊の攻撃時間半刻(1時間)も、本隊のシスプラ隊の攻撃時間一刻(2時間)も、大きな副作用無く乗り切れた。釣友のWASAさん、釣りインストラクター仲間でマイミクの豆姫さんがお見舞いに駆け付けてくださり、心晴れやかに抗ガン剤治療を受けていられたおかげだ。食欲も落ちず、シッカリと食事も摂れた。ん? あぁ、昼食は久々に病院食の昼食を食いましたよ(笑)。シッカリとサラダの野菜は水切りがされ、ビショビショのダラダラではなくなってた。そう、これが「作り手の思いの込められた病院食」ですよ。やればできるじゃんネ。夕飯は家内の差し入れ食の、鶏蒲焼き釜飯、砂肝、ハツ、ハラミ、モモ肉の塩焼き。これがもう、激ウマ! 腹一杯食ってしまった(笑)。

 やっぱりね、眠釣ってのは幸せな男ですよ。末期ガンだろうがなんだろうが、こうして人と会って笑い、事にぶつかって怒り、美味いモノを食って喜ぶ。喜怒哀楽という感情や気分を心から堪能できちゃってんだからね、ってお話でした。

 うらやましい? じゃ、せいぜい不摂生、不養生して末期ガンに罹ってください。きっと眠釣と同じ気持ちになれますよ(鬼笑)。

静穏

 調理請負業者S社との急転直下の和議成立に、心の静穏を取り戻し、いつもの穏やかな眠釣に戻りましたよ(笑)。それと「和議」のエントリーには書いていないが、今日は工房浦安のT常社長が、午前、新年お見舞いにと、再び千葉から駆け付けてくださった。もう、ありがたくて涙が抑えきれなかった。

 今日の午前中から午後一にかけて、それはもう一気にいろいろな事が起き、少々疲れたが、心の静穏はバッチリと取り戻せた。抗ガン剤治療第三クール3日目は、こうして始まった。物見役の制吐剤投与、今日は先陣ペプシド隊半刻(1時間)攻撃開始30分後のバイタル計測の後に、S社との和議会談。会談終了後に本隊シスプラ隊一刻(2時間)の攻撃。耳鳴りは続いているものの、血圧も酸素摂取量も安定。針を刺してある静脈も腫れずバッチリ。

 思わぬ流れでトンデモナイ騒ぎを引き起こしてしまったが、自分だって好んで揉め事を起こしたいワケじゃない。心穏やかに治療を続け、末期ガンからの克服生還を図りたいに決まっている。その静穏の阻害要因となるような事態が起きたから、鬼にでも蛇にでもなって怒り狂わねばならなかったのだよ、ってお話です。

 今回の一件、自分はきっと良い方向に進んでいくと信じている。今回の決着方法は、誰も傷つかず、誰も損をしない。個人的な責任を負う人もいない。お金も掛からない、手間も増えない。ただ、少しの気遣いだけがあればイイ。いわゆる ”大人の決着” でもない。ベストの決着方法だったと確信しているけど、独りよがりすぎるか……な?

和議

 栄養科の調理請負S社とのマジ喧嘩の一件。本日、急転直下で和議が成立しました。

 午前10時頃、D病院の調理室で業務を担当している指導者さん達が、改めてお詫びに来てくれた。お詫びはすでに昨日、調理担当者から詫びてもらっている。なぜこのような事態が起きたのか、原因がどこにあるのかを自ら考え、答えてもらった。答えは一つ。慣れによる気の緩み。すなわち怠慢。

 「我々入院患者は調理を担当してくださる調理員の方々の力添えがなければ、
  食事という生命をつなぐ治療が出来ないのだよ」

と言って聞かせると、女性指導者は涙を流して猛省していた。もう、二度と怠慢は犯さないと約束させ、11日に支店長が来られる時には、口約束ではなく、書面で改善履行を確約して欲しい旨を伝えてもらう。するとS社の支店長が、11日を待たずに訪ねて来られた。会えなくてもイイから眠釣に名刺を渡して、来た事だけでも伝えて欲しいとの事で足を運んでくださったそうだ。

 日本人の喧嘩(=戦:いくさ)というのは、喧嘩中であっても義には義で、礼には礼で、誠には誠で応えねばならぬ。それが日本人の喧嘩の作法だ。抗ガン剤治療中で横になっていなければならない非礼を詫びた上で会う事にした。支店長と共に、昨日と同じくM看護師長、事務局業務課長、医療安全対策主任が同席。

 支店長にはまず、昨日の無礼な女担当者とやらの対応について、厳しく問責させてもらった。指導の至らなさを詫びておられたが、「三つ子の魂百まで」って言葉がある通り、人間の性根はそう簡単に変わるモンじゃない。あれだけ自分に言い募られても、メモ書きすら出さなかった強情さは、どんな指導も教育も無駄だろうなぁ。

 それはともかく、今回の一件は請負業者として現場の実情、実態の把握がまったく出来ていない、管理指導が形だけで実際には機能していない、調理担当員の労働モラルの欠如、管理者のルーチン業務慣れによる無意識の怠慢、これらが原因である事を徹底認識してもらった。そして眠釣個人への謝罪ではなく、何をもって決着とすべきかについて話させてもらった。

 支店長から、D病院Y理事長・O院長に対して、「業務改善誓約書」を提出し、調理行程の改善徹底、手抜き再発防止、療養食の調理手順の向上等を ”誓う” ように提案。計画書や予定表ではなく、「誓約書」ですから、守らなかったら大変ですよ。事務局業務課長、NST管理室主任、M看護師長の承認の上で、書面での提出を約束させましたから、これで確実に改善は実現履行されるでしょう。ついでに眠釣個人への謝罪も、この誓約書提出で充分、と言う事で和議成立。

 今回の一件、偶然に偶然が重なって、生意気にも350病床の入院患者を代表して、言う事を言わせてもらった。別にクレーム意見書を出した仕返しで朝食を出さなかったワケじゃないなんて事は承知してたさ。でも、タイミングと相手が悪すぎたね(笑)。自分のように世の中の裏側を取材し、人の裏面を見ている人間は、不正や悪意、腐敗、堕落、怠慢に敏感なのですよ。それとね、末期ガン患者は健常者よりも ”鬼” に近い生き物です。生への執着、執念深さは健常者なんざ目じゃないヨ。なにしろ ”鬼籍” に入る寸前の世界に棲んでンだからネ、ってお話でした。

 あ~、良い決着方法で和議が成立してヨカッタ! と、独り悦に入る眠釣。コイツ、やっぱり迷惑千万なお祭り野郎で、当分の間は世に憚りそうだゾ(笑)。

心気

 抗ガン剤治療第三クール2日目。今日は栄養科の調理請負業者S社との、マジ喧嘩勃発で開始が1時間半ほど遅れてしまった。怒りに燃える自分の血圧が、30近く跳ね上がって160-120なんて数値になっちゃったモンだから、抗ガン剤の投与が出来ない(笑)。

 まぁ、なんとか気を落ち着け、血圧が上130台まで下がった午後4時に、先陣ペプシド隊の攻撃開始。しかし、腹の中ではまだカッカしているので、どうも耳鳴りがヒドイ。それと手足、顔までむくみ始めた。1時間の攻撃時間が終わり、少し間をおいて午後5時30分第二陣のシスプラ隊の攻撃開始。だいぶん気持ちは落ち着いてきたし、血圧も130台前半で安定。よしよし。でも、耳鳴りと一緒に、少し頭痛がする……。氷枕を交換してもらい、少し目を閉じてみるが、眠れない。抗ガン剤治療中は、開始から5分、10分、15分、30分、60分ごとに血圧と酸素摂取量、針を刺し多静脈の状態チェックが入るからね。寝てても起こされちゃう(笑)。

 2時間経過後、キツイ副作用は出ずに、後詰めのブレオ隊が出陣。このブレオマイシンと言うお薬が、自分にとって一番キツイ。血圧が100飛び台まで急速低下し、そのくせ37度台の微熱と冷や汗が流れ出したりする。ツライって程ではないが、気分が良くなくなってしまう。あ、いや、やっぱり、少々ツライな……。

 ところが、今日は怒りで血圧が高めなので、30分間のブレオ隊攻撃意中も、帰陣後も血圧は120後半~130台をキープ! 怒りが結果的に副作用を防いでくれた(笑)。ふむ、怒りも生存活動には必要な感情だもんな、ってハッキリとわかった。

 11日はS社の中ボス相手の喧嘩が待っている。キッチリとケジメを取らせにゃならんので、抗ガン剤の副作用なんかで衰弱するワケにゃいかん。心の喧嘩支度が副作用を凌駕しちゃいましたよ、ってお話でした。

 ジャデデジャス。ババサズ、ジャデデジャス!
 バレンジャゲベ! ゴセパキョクギンサギササ、ン・ミンチョ・ゼダザ。

宣戦

 はいはい、栄養科の調理請負S社の地域担当者とやらが、午後2時30分過ぎに 「お詫び」 に来ましたよ。朝、謝りに来た、若い調理担当者も一緒に。もちろん手ぶらでね。しかも、だね、

 名 前 も 名 乗 ら ず 、 名 刺 も 出 さ ず に な !

 オイコラ、女。テメェ、お詫びに来たってウソだろう。とりあえず小うるせークレーマーの顔だけ見て、どんな素性か確かめておこうって魂胆だな。ドブ臭ェンだよ、この腐れ外道が。こうなったら全面戦争しかねェ、と、思ったが、とりあえずは相手の口上だけは聞いておこうか。

  「このたびは誠に申し訳ありませんでした」

  「うん。で、何が申し訳ないと?」

  「いえ、あの、ご不快な思いをお掛けしまして……」

  「あのさ、今何時?」

  「午後2時半過ぎです」

  「ねぇ、これって今朝何時の出来事?」

  「朝食時間です……」

  「で、あなたのところに連絡入ったのは何時?」

  「10時半頃です……」

  「ふ~ん。で、とりあえず調理担当に謝らせて、様子見てたのね」

  「いえ、そんなつもりでは……」

  「で、今、何時だと?」

  「午後2時過ぎてます……」

  「放置してンじゃん」

  「いえ、そんなつもりは……」

  「じゃぁ、なんでこんな時間よ? 他出中で遅くなりますが、○時には
   お伺いします、ってD病院に連絡しておいて当然じゃない?」

  「……(無言)」

  「でさ、貴女は何しに来たの?」

  「?」

  「まだ、貴女の名前も聞いてないし、名刺ももらってないんだけど?」

  「地域担当のHと申し……」

  「社内ポジションは?」

  「地域担当という事で……」

  「役職は管理職? ヒラ? ただのクレーム担当?」

  「いえ、そう言った役職や規定は無くて……」

  「ねぇ、謝る気なんか最初からないでしょう?」

  「いえ……」

  「文句を言うだけ言わせる、ガス抜き役で来た、って、わかるよ」

  「そんな事は……」

  「あのさ、名前は名乗らない、名刺は出さない、役職不明って何?」

  「……(無言)」

  「何しに来たのよ? さらに怒らせ、喧嘩売りに来たン?」

  「そんな事は決して……」

  「貴女じゃ話にならない。上の人と一緒に、もう一回来なさいよ」

  「はい、上の者とお詫びに伺います」

  「上の者って誰? どんな役職の何者?」

  「あ、はい、名古屋エリアの支店長と一緒に……」

  「あのさ、お詫びはもう、調理担当の彼女にしてもらったから」

  「はい……」

  「今後、どうするのかを約束しに来るンなら、出直して来てよ」

  「?」

  「最初から不手際を謝る気がない、ってのが見え見えなんだよ!」

  「そんなつもりはございません……」

  「じゃぁ、名刺がないならメモで名前と連絡先を渡すくらいしなよ」

  「……」

  「ほら、できないジャン。隠したいんだろ? 証拠を残したくないンだろ?」

  「……」

  「無駄だよ。ここに証人として、D病院の管理役職者も同席してる」

  「……」

  「僕はね、こう見えても鼻が利くんだ。悪意や不正のニオイにね」

  「今日は許すも許さないもない。
   この後、10日まで化学療法だから、ベッド安静になるからね」

  「明日にでも出直して……」

  「ダメ。化学療法が終わってから、ゆっくりと喧嘩しましょう」

  「そんな……」

  「そっちが、たった今、売って来た喧嘩じゃないか。
   言っておくけど、僕は普通のクレーマーじゃないからね。
   末期ガン患者という、先の見えない世界の住人だからさ、
   怖い者知らずだって事を忘れないように」

  「……」

  「運が良ければ、10日までに死んじゃうから、お詫びに来なくて
   済む……かもよ(笑)」

  「い、いえ……」

  「まぁ、とりあえず今日はお引き取りくださいな。気分が悪い」

  「す、すみませんでした……」

  「病院には鬼に近いのも棲んでいる。忘れないようにね……(笑)」

 この後、M看護師長、事務局業務課長、医療安全対策主任と、今後についてのお話をさせていただき、その話も十分に聞かせて、S社の女担当者とやらには帰ってもらった。

 食事が不味くて食べられないのに、「マズイ」 と言えなくて残し続け、持続点滴に切り替えられて、生かされてるだけの患者さんがいる。本当は美味しいモノなら、ガンガン食えるのに。患者の現実と辛さを、初めて生の声で知った……、とM看護師長と安全対策主任は涙を流した。

 話はこの先、病院全体を巻き込んでいく事になる。D病院を敵に回さずに、うまく立ち回る必要も出て来るなぁ、ってお話が1月11日に続きます。

 ほらね、末期ガンで死にかけてるのに、入院先の病院でこんな大事を引き起こしちゃうんだから、眠釣ってなぁ、ホントにロクでもない人間でしょ(笑)?

遺恨

 いやいやいや、D病院栄養科めが、昨年出したクレーム意見書の意趣返しの仕返しをしてきやがりましたよ。今朝、眠釣の分だけ朝食が用意してなかったわ、マジで。看護師さんが、「別のカートに入っちゃったンだと思うから、チョット待っててください」 って探してくれたンだけど、結局、「 作 っ て な か っ た ! 」 ワケですよ。「スグに作らせます!」ってンで、さらに15分ほど待たされた、朝食時間40分後に出てきたのは、選択しているパン食ではなく、冷や飯に冷めた味噌汁に冷めたくなった煮物モドキ。電子レンジで温め直してさえいない……。その場にいた入院患者仲間も愕然……。

 「 誰 が こ ん な モ ン 、 食 う か ッ ! 」

 当然、手も付けずに下げてもらった。しかし今日は抗ガン剤治療用第三クール二日目。何も食わずにいるわけにはいかぬ。サッサと売店にカツサンドとミックスサンド、ミルクとヨーグルトを買いに行く。

 売店から戻ってくると、看護師さんが平身低頭で謝ってくれたが、看護師さんが謝る理由はどこにもない。栄養科が謝りに来い! 偶然にしても相手が悪すぎるぞ。クレームの意見書を出した人間の朝食を作り忘れて、「あぁ、ミスや手違いは誰に出もあるからイイよ」 などと、寛容に許すはずがないだろう。しかもだな、普段は明るく振る舞っていてはいても、人生末期の病床かもしれないって、複雑不安な心理状態の末期ガン患者だぞ。本当に手違いのミスだったとしても、「意見書の意趣返しに、仕返ししてきやがったな!」 と怒り心頭になって当然だろうが、ってお話です。

 この意趣返しへの遺恨、キッチリと討ち返してくれるぞッ!

幻想

 本来なら現代版の無頼浪人、売文屋の野良オヤジが世間を藪睨みしつつ、釣りやらペットやら世相やら経済ネタやらを、好き勝手の書きたい放題に綴る日記(ブログ)のはずだったンだが、2010年夏のガン発症から、すっかり闘病日記になってしまった。まぁ、個人が好きでやってる事なんで、どこでどう方向転換しようが、質が上がろうが下がろうが、そりゃ運営者の勝手なんだから、閲覧者にご容赦を願う必要はありませんね。

 で、そんな闘病日記をご覧になった方から、お褒め頂いたり、声援メールやメッセージや電話を頂いたりと、非常に嬉しく、感謝感激の毎日を送っているンだが、中にはとんでもなく眠釣を買い被り過ぎてておられる方がいらっしゃる。いや、お褒めくださるのは嬉しいんだが、眠釣ってオッサンは本来ならね、「眠釣ってコイツ……。現代版無頼浪人とかって、人としてどーなのよ?」ってな ”変人扱い”をされて然るべき人間なんですよ。

 元役者モドキでフリーの売文屋。愛煙家で昼夜逆転生活という不健康・不摂生な生活の末に多重併発・多臓器転移の末期ガンを患って、新年を病床で迎えている体たらく……。他の闘病中の患者さんや怪我人や障害者の皆さんと違って、まさしく自業自得の因果応報ってヤツです。

 人ってのは、健康で元気に働き、人の世の活動に寄与してこそ一人前ですよ。子供だって元気に学校へ通って、勉強して当然でしょう。今の眠釣は、本来なら堕落した人間の典型です。自業自得で大病を得ておいてだね、働かなくてもOK。一日中寝ててもOK。来客の前で寝そべってようが、横になってようがOK。こんなの人として許されると思います? まぁ、憎まれ口は叩いても、悪さできないだけマシかもしれンけど。

 そんな自業自得で奈落に落ちた人間が、「明るく元気に、朗らか笑顔で闘病生活」 なんてェのは、本来あっちゃならねェ事です。鬱々と辛気臭い愚痴やら、不平不満なんぞを綴ってるよりゃマシだけどさ。あ、病院食の一件は、そこに悪意や手抜きを感じたから、厳しく追及させてもらった。なにしろこちとら、食事は治療の一環だかンね。手抜き食事を我慢なんぞしてたら、下手すりゃ死んでしまう。最悪、持続点滴で生かしておいてはもらえるけどさ。この一件はプロの売文屋の斬り口で突撃しておいたから、解決の糸口もムニャムニャ……。結果は公表できんかもしれん(笑)。

 ともあれ、そんなワケで、

 「末期ガンの病床にありながら、前向きで飄々と日々を闊達に過ごし、
  自分を取り巻く環境とすべての人々に感謝できる眠釣さんはエライ!」

なんてのは錯覚や幻想に過ぎません。本気で世のすべてに感謝しているけれど、

 「 眠 釣 は 自 業 自 得 で 堕 落 し た 典 型 だ か ら 、
   世 の 中 す べ て に 感 謝 し て 当 然 な の ッ ! 」
  (悪 意 、 不 正 、 詐 欺 、イ ン チ キ な ど は 除 外)

って、真面目に訴えておきましょうかね、ってお話でした。

 ホント、こんな眠釣を本気で褒めてたりする人は、壺や印鑑を売りつけられた上に合同結婚式をどこぞで挙げさせられちゃったり、大躍進と大勝利が好きな新聞を取らされたり、ゴミみたいなお節料理を買っちゃったりしやすい人だと思いますよ?

 嫌われたきには非ねども、持ち上げ過ぎは錯覚、幻想の類にて御座候へば、そろそろ目を覚まされるが宜しかろうと存じ居り候。

神業

 今日から抗ガン剤治療の第三クールが始まるンだが、抗ガン剤は一般の点滴とは違って、万が一でも静脈から漏れたりしたら、腫れるとか内出血するだけでは済まず、その部分の細胞が壊死してしまう。なんつったって、ガンと言う生きている細胞を破壊するお薬だからね。おまけに泡立つほど濃い。

 で、なるったけ太くて健康な静脈を選んで、太めの点滴針を刺すワケだ。しかし、昨年8月に発症を確認してから、まともな運動をしていない自分の身体……。しかもここ3ヶ月はほぼ寝たっきり。筋肉は落ちるわ、静脈は沈み込むわ、静脈の血管自体も脆くなるわ……。実を言うと、脳の腫れを抑える点滴では、薬が漏れて腫れ上がる、点滴針の刺し換えも失敗の連続で、左腕はもう内出血だらけのゾンビ状態で、まるでリアル・バイオハザード(笑)。

 右利きの自分は右腕の方が筋肉が発達していて、静脈の血管もシッカリしている。右腕の静脈は抗ガン剤治療用に取っておいた。それでも第一クールの頃に比べたら、ずいぶんと頼りない。看護師さんが刺す場合、皮下に針を入れてから、慎重に静脈を探るンだが、これがね、チックリチックンと不快な痛みなんですよ。と~こ~ろ~が~ァ、我が主治医のN尾先生の手に掛かるとだね、

 「じゃ、刺しますよ。少しチクッとしま……、ハイ、入りました♪」 d(^-^) 

 「えッ?」 (´・ω・`) チクッ、シナカッタヨ?

 一撃必中。針を差し込むと同時に、静脈にクリティカルヒット! 一瞬の躊躇もなければ、探りもしない。もう、患者の静脈も動脈も筋肉も、どんな方向に、どう張り巡らされているのかを、すっかりご存じかのようだ。これは昨夕の事。これで補液を開始し、今日からの抗ガン剤治療用第三クールの準備完了。

 さぁて、おそらく午後に闘病生活の第六ラウンドのゴングが鳴る。それも多くの抗ガン剤治療患者が、激しい副作用に悩まされ始めるという第三クールですよ。でも、ゴッドハンド・ドクターN尾先生からは、制吐剤もあるし、打つ手はいくらでもあるってお言葉をいただいているので、おっかなびっくり、ドキドキハラハラしながら闘ってきますよ、ってお話でした。

 あ~、でも、やっぱし、怖ェな~(笑)。