砂時計 ひとつぶひとつぶ流れゆく

やすまずに 流れるように落ちてゆく


ざーざー 海の音が聴こえるよ

汐の香りが漂ってくる

潮風が 冷たい頬をゆらしている


ここは あなたと行った大海原

果てしない 地平の見える砂浜の

砂がはいっているかしら


今私は 地に這いつくばって生きている

ちいさな狭い器のひとでなし


朝いちばん 多くの仕事があふれている

通り道は 狭くて細くて ひとつぶづつしか通らない

たくさん通すと壊れてしまう

やすまずに ひとつぶひとつぶ通してあげよう


一日が 終わるその時までに

太陽が あかあか沈むその時までに

漆黒の 暗闇覆うその時までに


砂時計 多くの砂があふれている

ひとつぶひとつぶ通していこう

やがて ひとつぶ残らず すべての砂を通してあげよう


ざーざー 海の音が聴こえるよ

汐の香が漂ってゆく

潮風が 冷たい頬をゆらしている

地平に大いなる 太陽が沈むその時までに

永遠の 眠りがおおうその時までに

やすまずに ゆっくりゆっくり時の砂を流してゆこう


ざーざー ざぶんざぶん

サーサー サーサー サーサー



※ ひとつでは物足りないので、過去の詩とセットで記します。


待って 待って

靴が脱げそうなの


やわかい砂浜に足をとられる

いつもの固い土とは違う この感触


これ履けよ

それはあなたの黒い長靴だった

私の靴が汚れないように

私の靴が濡れないように


ここは香川県の琴弾公園の浜辺

白砂がはるか向こうまで広がるところ

琴弾山山頂からは目を見張るような景色が広がっている


今日が初めてではない

まるで織姫と彦星のように

年に一度だけ その時はやって来る

静かに 貝は待っていた


マテガイが捕まえられるか逃げおおせるか

逃げられるか喰はれるか

その時がやって来たのだ


琴弾公園にいるのは 細い竹棒のようなマテガイ

熊手でかいて 穴から出て来たら そこへ塩をまく

驚いて出て来たマテ貝を即座に掴み

マテ貝が力を抜いたその時に さっと上へ引き上げる

騙し討ち


あなたは言う

塩まいて頭が出たら 間髪入れず掴んで 引っこ抜かなくちゃならないだろ

ひとりでそんなこと長くはやってられないぜ


そう共同作業でなくちゃね

塩をまく人 掴む人


春の海の水はまだ冷たい

その冷たい海の水の中

波打ち際で貝を洗う


こんな貝もあるんだ

人が食べられる 様々な種

喰われる運命の生き物たち

人に捧げるために生きてきたのか

あなたと会わなかったら知らなかったこと


春の海は静かだ

海に集う人もまばら


採っては喰い 喰っては採る

潮風が頬を揺らす

海の匂いが体に沁みる


まもなく汐が満ちて来る

貝採りは終わりだ

逃げおおせた貝は海と砂に抱かれ眠りにつくだろう


夕陽が海に沈みゆく

地平に赤く沈みゆく

空は彩を変えてゆく

辺りに闇が忍び寄る

静かな闇が忍び寄る



※ 過去の詩を少しだけ直しました。