「大好きな笑顔…」(真斗×春)



どうしよう。
きちんと、また…お留守番。
出来ると思っていたのに。

携帯を触ってしまっている。

会いたい。
その気持ちが溢れてしまう。


端役だから。
そう言って少し照れて教えてくれた番組を
録画したDVDを再生する。

何度も。
何度も。
繰り返し…見る。

一瞬だけ映る姿でも、
その演じている人の世界。人生を考え、感じて動く姿。
魅力的だけれど…
別人の様で。

携帯で写真を撮って。
次のDVDを再生する。
大好き。
大好き。

気付くと、瞳から涙が溢れてくる。

私を大切だと。
誰よりも大切だと言ってくれた人の
多くの表情が…
携帯の中に溜まっていく。

多く見れば、
寂しい気持ちが無くなると思ったのに。
気付けば、
いつも私の傍にいる笑顔を探す様になっていた。


今朝も一緒に居て。
大好きだから、つい…
その笑顔に見とれてしまって…
写真を撮るのを忘れてしまった。

こんなに。
心にポッカリと穴が開いてしまうのなら…。
一枚で良いから
取れば良かった。

こんな状態では、
新しい二人の曲が作れない。


_____♪



優しい曲が流れる。

着信っ。


飛び込む様に、
携帯に飛び付き、『はいっ』
正座で飛び込んだから、
少し痛めた膝を擦ってしまう。
声に出してしまうと、
心配してしまうのは分かっていたから、
我慢。
唇を噛み締めながら、話そうとすると…
いつもの受話器から聞こえて来る声とは違う声色で
『ハル。隠さなくて良い』
私を包み込んでくれる…。


「え?」
「ただいま」
「ええっ」
「心配だったからな。早めに帰宅した」
「…っ」
「浮気をしていたな」
「そんなっ。していませんっ」
「それは、俺であって、俺ではない」
「あっ…」

一瞬の動きを止められた画面を見つめる視線。
ほんの少し前までは、
その姿に視線を縫い止められていたのに。
今は、視線だけでなく、心まで
目の前の姿に惹かれてしまう。


「今日は二人で出掛けよう」
「本当ですか?」
「ああ。そして、写真を多く撮ろう。
二人一緒も良いな」
「はいっ」


不安はまだ…心の中に燻っている。
多分。
ばれていると思うけれど。
温かな笑顔の傍にいれば。
きっといつか…。