その名前を聞いたのは、沢木耕太郎が人物を描いたドキュメンタリーである。
初めてその人が歌詞で使う「木戸」という言葉の意味がわからなかった。
十代のわたし。
次にまたわからなかったのは、歌詞の中の「すがしい」という言葉。
すがしいシクラメンの花というのは、どんな色なのだろう。
決定打は、美空ひばりに作った「愛燦々」。わたしの中で美空ひばりのナンバーワンに好きな歌になった。
こんな美しい日本語を柔らかな音楽で歌う人を生で見たくなった。
たまたま、仕事が休みな日曜日に近くホールでコンサートが開催するらしい。
久しぶりに母と繰り出した。
前日に酒場のお客さんに、「愛燦々聴けたら泣くな」と言っていた。
だけど、その前に泣けた。
コンサートで、大人がすすり泣くのを聴いたのも初めて。
わたし以外の聴衆も、周りに気を遣いつつも、泣いていた。
わたしは今は三十三歳、
歌声の主は六十六歳、もっともっと昔の音源を聴きたいと思えた。
いい日曜日の夜だった。
追記、画像はコンサート会場。小椋桂「邂逅 歌創り40年、旅途上。」。