「代理店の人の話によると。そのプロジェクトメンバーの中に高野副社長の離婚して丹波に置いてきた息子がいたって。」
高宮は顔を上げて真緒を見た。
「え・・」
テーブルに置いたスマホの画面には『ASHURA』のアプリが入っている。
以前からよく使っていた。
初音と車に乗ってジャズを聴いたのもこのアプリからだった。
「なんでも。海外から元々のアプリの権利を買って改良、開発したらどうかって発案したのがその息子さんだったって、話。その息子さんがいったいどういう経歴の人なのかは全くわからないんだけど。とにかくすごくできる人だったって。でも。2年くらいで辞めて田舎に帰ってしまったらしい。」
もう間違いなく初音のことだと悟った時
真緒はこれまでの初音との会話がたくさんたくさん蘇ってきていた。
「北都社長も。『すごくできる人なんだ』っていつも褒めてる。この話は社長にはしてないんだけど・・。 その話聞くと、まあ当然かなって思わなくもないし。なんでそんなにできる人なのにこっちで仕事しないのかな、とかわからない部分はたくさんあるんだけど・・」
高宮は父の頃からの秘書でとにかく色んな所にコネクションがあって情報量と記憶力がハンパない。
それは真緒もよくわかっている。
今の話はおそらく真実なのだろう、と思った。
「初音さんは。 丹波篠山に住んで、あそこで農業をやるのが好きだからって。そう言ってた。もったいないなってあたしも何度も思った。でも・・なんて言うか。心を読ませない人っていうか。探られることがすごく嫌なんだなってことはわかってたから。東京で2年くらい仕事したって話は聞いたけど・・」
ようやく真緒はポツリポツリと話し始めた。
「すごく。気を遣う人なのよ。自分のことよりお父さんや弟のことを・・一番に考える人。地元が好きなんだろうなってすごくわかる。丹波篠山のいい所たくさん連れて行ってもらったし・・素敵なものも・・美味しいものも。何もないけど美しい風景も、星空も。全部好きなんだろうなってこと・・わかる。」
8階にある休憩所から見える景色。
とにかくビルとせわしなく車が動く道路しか見えなくて。
この大都会がこの日本で一番いい場所だなんてとんでもない思いあがりだということを丹波に行って思い知らされた。
高宮は真緒の横顔を見て小さなため息をついた。
「もし。余計なことだったらごめん。なんか話のとっかかりだったことできみを悩ませたんじゃないかと思って、」
「あたし?なんで?」
真緒は精一杯の笑顔を作った。
「おれ。真緒さんにホントに幸せになってもらいたいんだよね。」
しばしの間があって
「いや。何の話よって、」
真緒は真顔でツッコんでおかしくなって笑ってしまった。
「おれ、さあ。何となく絶対結婚なんかしないんだろうなって自分で思ってた、」
いきなり高宮が話題を変えてきたので
「え、」
目をぱちくりさせた。
高宮が真緒に初音のことを話した理由は・・
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