密やかな想い番外編~メリークリスマス&ハッピーバースデー(1)~ | ななちのブログ

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馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

※ご注意ください。

この物語は、「密やかな想いシリーズ」の番外編になっております。お読みいただく際には、まず「密やかな想いシリーズ」を全て読んでいただきました上で読まれることをオススメいたします。まだお付き合いが始まる前の、蓮がキョーコちゃんを口説きまくっている頃のお話としてお楽しみくださいませ♪









 彼は、私に言ったのよ。



 ―――でもね、覚えていて?俺はいつだって君を求めているよ……―――



 どんなドラマの中よりも熱く、切なく…そして、切羽つまったその声に、私は心臓を握りつぶされそうになったの。彼の想いが、私の中に広がって…。私は、本当に彼に愛されているのだと…嫌でも分かってしまった。



 それでも。



「……やっぱり、釣り合わないですよ。……敦賀さん。」



 やっぱり、今の私じゃダメなんです。だって、あなたはこんなにも……雲の上の人なのに。









******



「今回の素敵なゲストは、『密やかな想い』でヒロインを演じた京子さんです。」

「こんにちは。よろしくお願いします。」



 1224日。クリスマスイブのこの日、最後のお仕事は10代後半から20代前半の女性に人気の女性ファッション誌のインタビュー。

 30代前半くらいの美人記者さんが、あいかわらず取材に慣れない私に優しい笑顔を浮かべながら丁寧な口調で話をしてくれる。



「それにしても京子さん、とっても素敵なワンピースですね。シンプルなデザインだけれど、とっても上品でいて可愛い…。それ、私服ですか?」

「あっ、えっ…えっと…はい。あのっ、ぷっ、プレゼントとして、頂いたものなんですけれどっ!!」



 映画『密やかな想い』への一連の取材の後、突然話は私自身へと向けられる。思わずスカートの裾を掴んで答えると、女性記者さんはにっこりと微笑んでみせた。



「ふふふっ、どなたからのプレゼントか聞くのは野暮というものですね…。それにしても、お似合いです。」

「あっ、ありがとう、ございます……。」



 ―――はい、これ。クリスマスプレゼント―――



 今朝、突然の電話で「だるまや」からほど近い公園へ呼び出された私は、敦賀さんから青と赤と緑のクリスマスらしいラッピングを施された包みを押し付けられた。



 ―――今日、キョーコちゃんはLMEでの雑誌取材で仕事が終わるよね?7時が終了時刻だっけ?俺も同じくらいに仕事が終わるように調整したから、これを着て事務所で待っていて?―――



 突然の出来事にプレゼントをつき返すこともお礼の言葉を伝えることもできずにいる私に、スタスタと自身の乗ってきた車へと戻りながらお願いと言う名の命令をされる。



 ―――『あの日』の約束通り。今日は俺の恋人になって一緒にデートをしてもらうからね?よろしく―――



 爽やか笑顔を残し、言うだけ言うとさっさと去って行った尊敬する先輩俳優。茫然と去って行く車をしばらく見つめ…「だるまや」に帰った私は、包装紙を開いてへたり込むこととなる。



 …私の好みどストライクのワンピース。薄ピンク色の肌触りのいい布地に、ところどころ上品な蓮の花(…よね?この形は…)の刺繍が小さく施されたそれは……どう見ても高級品。単なる後輩が受け取っていいはずがない代物。



 お世辞でも似合うと言われてとっても嬉しいけれど…受け取らないべきだと散々私の中の天使が叫んだのに、あまりにも素敵すぎるワンピースに思わず袖を通してしまった自分自身に呆れかえるわ……。



「さて。この雑誌を読まれている皆さんはもう1月に入ってお正月気分の抜けかけている頃なんでしょうが…現実の私達はクリスマス・イブにこんな仕事をしているんですよね。…世の皆さんが恋人や家族と楽しくパーティーでも開こうかという時間に、虚しくも。」

「ふふふっ、本当ですね。虚しくも。」



 心底残念そうに話す記者さんに、思わず笑ってしまう。綺麗な女の人なのに、時々砕けた物言いで緊張をほぐしてくれる彼女に、なんだか好感を持ってしまっていた。



「京子さんは恋人がいますか?」

「うぇ!?そっ、そそ、そんな人っ!!いませんっ!!全くっ!!全然っ!!」



 だからこそ油断をしていたのかもしれない。普段であればあっさり流すことができた『その手』の話に、過剰反応をしてしまった。



「あら、そうですか。」

「はいっ!!私、今は自分のことで精一杯でっ!!お仕事に集中しておりますしっ!!だから…その、そういうことは全くっ!!」



 自分でも「しまった!!」と思ったけれど、記者さんは大して気にした様子もなく、すんなりと私の否定の言葉を受け入れてくれた。



「でも、誰か好きな方はいらっしゃるでしょう?」

「うぇっ!?」



 さらりと問われた内容も、ホッと息を吐いた瞬間だったから冷静に返事ができなかった。



「『密やかな想い』。私、大好きで何回も観させていただいたんですよ?」

「そ、そうなんですか?ありがとうございます。」

「はい。あなたの演技が大好きで。」

「……え?」



 にっこりと笑う記者さん。優しい笑顔は、お世辞でもなく本気で言ってくれているのだと…。自惚れかもしれないけれど、そんな気がした。



「あなたの役。『峰岸 彩』は、本気で恋をしていましたね?あなたの恋の演技、とても素敵でした。」

「…………。」

「だから、思ったんです。京子さんも、きっと恋をしている、と。」



 『峰岸 彩』。幼馴染みの…兄のように育った人に無謀にも恋をして…告白もしていないのに勝手に傷ついていたバカな女。そんなバカ女は、気付かぬうちに自分を見守ってくれていた男の人まで傷つけていた…本当にバカすぎる女。

 彼女をバカだと思いながら…。でも、彼女の気持ちの半分以上を、私も理解できるようになってしまっていた。



「……はい。」

「え?」

「私。…好きな人が、います。」








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