「とりあえず移動しよう。」ということで、私は敦賀さんに連れられて彼の愛車の助手席に乗り込み、LME事務所よりほど近い公園まで移動をした。
「はい、これ。どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
「待っていて」と助手席に残され、しばらく待っていると、コーヒーと紅茶の入った缶を持って帰ってくる敦賀さん。近くの自販機から購入してきたらしいその温かい紅茶を受け取って一口飲んでいると、「ふぅ~~」と、敦賀さんが長い溜息を吐いた。
「…あの?」
「ごめんね。君が喜ぶことを…って、ずっと考えていたんだけれど、実は全然浮かばなかったんだ。」
彼は、照れくさそうに笑って言った。その顔は、普段の『敦賀蓮』とはまた違う、幼さを感じる笑顔だった。
「君にもっと俺を好きになってもらえるようにって、気合を入れてプランを立てるつもりだったんだ。色々調べて…イルミネーションとか…綺麗なツリーを一緒に見るのもいいだろうな…とか。…キョーコちゃん、そういうの、好きだろ?」
「……はい。」
問われて、正直に応える。すると、敦賀さんは眉間に皺を寄せると頭をかき始めた。
「…でも、そういうものを見に行ったら…イルミネーションやツリ―に夢中になって、俺のほうなんて絶対見ないだろうし…。俺ばっかりキョーコちゃんを見る結果になったら腹が立つじゃないか。」
「君に会うの、2週間ぶりなんだよ!?」と力説する敦賀さん。…これまで三日と空けずに事務所でごあいさつしていたし…今朝も会いましたけれど…。あれくらいの時間ではもはやカウントされないんですね……。
「美味しいご飯を食べに行くことにしたって、キョーコちゃんは出される料理に夢中になって、料理長としか話をしそうにないし……。」
「…………。」
そっそれは…そうかも、しれない。…美味しいものを食べて、敦賀さんが「美味しいね」って笑顔で言っているのを聞いたら…その料理、再現したくなるもの。
「雑誌では、『敦賀蓮』として偉そうなデートプランとか話をしていたけれど…。キョーコちゃんとのことを考えていたら、何も浮かばなくて。…というより、こうして君と二人っきりで会えると考えただけで舞い上がってしまったものだから。それだけで嬉しくて幸せすぎて、それ以上のことなんて思いつかなくなってしまったんだ。」
最後まで言い切った後。私がじっと彼を見ていることに気付いた敦賀さんは、美しい顔を一瞬のうちに真っ赤にして……俯いてしまった。
「…この時間までに、何か考えようと思っていたんだけれど、結局何も思いつかなかった。…格好悪くて、ごめん。」
今日はせっかくのクリスマスイブで…後4時間もしたら君の、誕生日なのに…。と、呟く敦賀さん。
「……いいんです。」
「え?」
「何も、いりません。」
「…キョーコちゃん?」
24日。それは、昔からクリスマスプレゼントと、誕生日プレゼントを受け取ることができる、とても幸せな一日だった。
25日は、イエス・キリストが生誕した日。神の御子がこの地上に降り立ったとされる…多くの人にとって、とても大切な日。その日に、たくさんの人が私の誕生日を祝ってくれたのは、去年が初めてのこと。そして初めての経験に、誰よりも先にお祝いをしてくれたのは、今…目の前にいる、この人だった。
「あなたが、『おめでとう』って言ってくれたら、それで十分です。」
「キョーコちゃん……。」
17歳の最初に、あなたに「おめでとう」と言われ…そして、18歳になった瞬間にもまた、あなたに「おめでとう」と言われる。これ以上の、幸福があるだろうか。神に愛されたこの美しい人に、生まれたことを祝福される以上の喜びなんて、きっとない。