いつか…(6-2) | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

「……………。」

 

 節々が痛み、吐くもののない胃から壮絶な痛みがこみ上げ、身体をむしばんでいた。

 頭は朦朧とし、セラやポーラと思しき人間が、何かを問いかけてきたけれど、何をいっていたのかは分からない。

 開く視界は滲んでいて、何も見えなかった。

 体中が寒く、だが、暑かった。

 

 何がなんだか分からない、痛みや苦しみにのたうち回って……最終的には、その痛みたちが消え去りかけていて。

 

 ―――私、死ぬのかな……―――

 

 そう、感じた。

 

 もし、本当にあのまま、命が絶えていたら。

 死んでいたら、どうなっていたのだろう?

 

 死んだら。

ハデスの裁判が待っている。

 

 そうしたら、彼はコレットを、どう判ずるのだろうか?

 

 不敬がすぎると牢に閉じ込められるだろうか?…いや、それはない。

 きっと、師匠であるアンノ先生と同様に、あの暖かな明るい場所に行けと、判じてくれる。

 

 でも………

 

「死にたく、ない………。」

 

 死んだら、ポーラやセラに教えることができない。

 立派になってきたけれど、彼らはまだ一人前ではないのだ。

 それに、この村はもう、コレットの故郷も同様。

 やっと分かった大切な場所なのに。これからたくさん、思い出を作っていく場所なのに、失ってしまいたくない。

 

「ハデス様、私……。」

 

 それに、死んでしまったら。

 死んだらもう、ハデスの薬師ではいられない。

 ハリーやコツメ、ガイコツ達には会えないし、カロンとも時々しか会えなくなるだろう。

 何より、自由にハデスに会うことができない。

 

 実体を亡くしたコレットは影になり。

 そして、徐々に全てを忘れていく。

 

「死にたく、ないです。」

 

 ……忘れたく、ない……

 

 次の生に向かうには、忘れたほうがいいこともある。

 それは冥府の王の祝福ともいえるのだろう。

 

 全てを忘れ、新たな生を得ることで、また違う生き方をしていく。

 きっと次に生まれる『自分』は、『コレット』と違う生き方をするのだろう。

 

 父や母…村の皆の命が理不尽に奪われることはないかもしれない。

 温かな『家族』に恵まれて。

 思わず井戸に堕ちてしまいたくなるほど、心身ともに過酷な仕事に就くこともなく。

 他者の『死』を前に、悔やむことはない、ただただ、温かくてぬるま湯のような一生を、送ることができるのかもしれない。

 

 全てを忘れ、そうして生きることができたら。

 それはもしかしたら『幸せ』なのかもしれない。

 

 けれど。

 

「死にたくない……。」

 

 じわり、と視界が滲んだ。

 でも、逸らすことなく見つめる先の黒髪の冥府の王は、ただ黙ってコレットを見つめていた。

 

「忘れたく、ないです。ポーラや、セラのこと。村の、皆のこと。」

「………そうか。」

「ハリーやコツメや…カロンやガイコツ達のことも……ケルやベロやスーのことも、忘れたくない……。」

 

 そして、誰よりも。

 

「ハデス様のこと……絶対に、忘れたく、ない………。」

 

 これだけは、絶対に。

 

 だって、『恋』なんて知らなかったのだ。

 目線があったら恥ずかしくてドキドキして。ずっと見つめることはできない。

 傍にいたらソワソワして。それでも、離れることなんて考えられない。

 会えない時でも何度も思い出して。会いたい気持ちを募らせて。

 

 苦しくなったり、幸せになったり、フワフワした気持ちになったりと。

 

 たくさんの今までにない『感情』を、教えてもらったのに。

 
 
 
 

 

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