stayhomeの本棚(2) | aqua-moon

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水野理紗
声優*ナレーション*舞台
水月 秋
書きもの*シナリオ*小説


さて、2冊目です📘
ドラマや映画でひっぱりだこの池井戸潤さんの作品、『空飛ぶタイヤ』です。

家族がはまっているので、我が家の本棚には池井戸さんの本がかなりあります。
映像化された方を知っているけれど、原作としてちゃんと読んだのは、
私の場合、『七つの会議』くらいでした。
(こちらの原作も面白いです)

映画は、時間的制約がドラマよりも厳しいのは仕方がありません。
一度しか観ない人が多いという前提のもとで、原作を知らなくても一度でわかる認知の範囲におさめる。
しかも文字ではなく、耳で聴いてわかるようにするわけですから、シナリオ化はたいへんだと思います。
盛り上がりを際立たせるために、何を取り、何を捨てるかなども、きっとありますよね。

(本当は男性の役なのに女性になっていたり、という変更もありますが、それは画面の華やかさとかの問題なのかしら??キョロキョロ)

私は映画を観て、もっと知りたくなったり、気になったときに原作を読みます。
この『空飛ぶタイヤ』も、映画を観てからでした。

まず、原作の分厚さに驚き(笑)一瞬、手を出すか迷い、戸惑いながらもページをめくると…止まりませんでした。

池井戸さんの作品の特徴かと思いますが、主人公が見舞われる理不尽な状況がどんどん悪化して、とにかく辛い!
つらすぎて、途中、やめたくなりながらも、いや、ここでは終われないぞと思って、ページをめくります。
一瞬、救いの光が見えても、それはたいがい潰えてしまう…
それがわかっているだけに、主人公が「これさえ◯◯すれば…!」と希望的観測を抱くたびに、逆に読者は危機感を募らせます。

あ、これダメになるやつだ…と(´Д` )ガーン

そんなハラハラや苦しさを味わいながらも、どうしても気になって読み進めるわけです。


『空飛ぶタイヤ』は、三人の視点が交差します。
主人公は赤松ですが、映画ではそこまで詳しく描かれなかった銀行の井崎のことや、スマートな沢田が追い詰められて、具体的に最後に何をしたかなども小説では描かれているので、なるほどと納得できました。


そして、対する巨大組織の恐ろしいほどの腐敗!
とんでもない人がたくさん出てきます。
けれど、誰が見ても悪い!っという敵を、見事なまでにひっくり返すので、水戸黄門を観て育った私としては、スッキリして満足します笑い泣き

赤松の家族の話も出てきて面白いです。そちらもとんでもない理不尽な敵が出てくるので(笑)、理解不能な人間は身近に、そこかしこにいるという現実を思い起こさせます。

沢田の奥さんがとても素敵なのですが、映画では離婚したことになっていて、沢田の孤独がより強調されていました。
原作の中で、夫婦で話しているシーンにとても心に残った文章がありました。

「客観的には満足できても、主観的には物足りない。主観と客観が両立したとき夢は実現する。
あるいは、夢が実現したとき、主観と客観は両立している。そういうものではないだろうか」

見た目には夢を叶えたように見えても、自分が満足できていなければそれは夢を叶えたことにならない。
痛いけれど、その通りですね。


端的に、真実を。
さらりと伝えてくるのですから、小説はすごいです。

カタルシスを味わうには、もってこいの作品でした📘