海外の銀行は顧客口座情報を全て開示するのか? | Mr.Gの気まぐれ投資コラム

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香港を拠点に活動する個人投資家であり、自称「投資戦略予報士」Mr.Gがお伝えする海外投資の生情報。
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「海外の銀行は顧客の口座情報を租税協定に基づき、他国の税務当局に全て開示するようになってしまうのか?」

このような質問を受けることが多い。

多くの場合、このような懸念は、メディアの報道や海外の投資事情に詳しいと自称する誰かのアドバイスによって、過剰に刺激されて海外に資産を隠している人たちの不安が募り、海外に資産を移転しても「もうダメだ」的な絶望的な認識になってしまっている方が多いように見受けられる。

「HSBC香港などオフショアの銀行口座を開設したところで、全てガラス張りになってしまうのでもう意味がない」といった話しも過去に何度も聞いたが、各国の金融機関の自立した信用性に関わるのでそのようなことは起こりにくいだろうというのが当時のGの感想だったし、スイスなどタックスヘイブンのプライベートバンクに関しては、人類史上考え得る限り最高の守秘性を持っていると信じていた。

ところが昨年来の動きの中で、どうも認識を改めなければならなくなってきたと感じている。

昨年の記事も是非参考にして欲しい。

【国際租税協定に基づく情報共有化で世界中の銀行がガラス張りに!?】
http://ameblo.jp/saruahi/theme-10048002864.html


特に今年からは、世界の銀行間で、米国のFATCAやOECDのCRS主導による「国際的な税逃れ防止」規制が本格化する。

昨年までの規制の動きは、米国主導の「アンチマネーロンダリング」という観点が中心であり、「脱税」という観点では国際的な課税の透明性を推進する動きは顕著ではなかった。

今年からは、「アンチマネーロンダリング」という世界の治安を維持する目的の資金監視に加えて、「国際的な課税逃れの防止」という観点での国際協調体制が本格的に動き出すようだ。

米国が主導するFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)はタックスヘイブンを含む世界のFFI(Foreign Financial Insutitute)=いわゆる金融機関に対し、海外に銀行口座や投資口座を持っている米国市民の情報を強制的に開示させていっている。

UKのUKIGA(UK Inter-Governmental Agreements)は、イギリスの王室属領(Crown Dependencies)であるジャージー、ガンジー、マン島、そして英国領(British Overseas Territories)であるアンギラ、バミューダ、BVI(ブリティッシュ・バージン・アイランド)、ケイマン諸島、ジブラルタル、モンツェラット、トゥルク・カイコ諸島においてすでに施行されており、UKIGAはFATCAの方針に従い、上記のタックスヘイブンに所在するFFI(金融機関)から英国納税義務者(UK TAX RESIDENTS)の口座情報を今年から開示させる。
最初の報告は、今年の6月までに、2014年の6月~2015年の6月までの情報について提出される予定。

CRS(The Common reporting Standard)とは、各国政府間の新たな情報共有の基準として2013年4月のG20において承認され、今年からタックスヘイブンを含むさらに多くの国々がこのCRS基準によって情報開示の義務を負うこととなる。

このCRSはFATCAと類似したものではあるが、大きな違いは、FATCAが属人主義税制の米国主導であるが故に、市民権(Citizenship)を基準としたものであるのに対し、CRSは属地主義概念に基づき、租税居住地(Tax Residence)という基準でデータが共有される点である。

業界で言われているタックスヘイブン2017年問題というものは、このCRSの導入によって起こりうる混乱のことを指すようだ。

多くのタックスヘイブンにおいて今年の1月からこのCRSは導入され、来年から情報共有が始まる。

今年2016年1月からCRSが導入が開始された国は以下(2017年報告)

アンギラ、アルゼンチン、バルバドス、ベルギー、バミューダ、BVI、ブルガリア、ケイマン諸島、コロンビア、クロアチア、キュラソー、キプロス、チェコ、デンマーク、ドミニカ、エストニア、フェロー諸島、フィンランド、フランス、ドイツ、ジブラルタル、ギリシャ、グリーンランド、ガンジー、ハンガリー、アイスランド、インド、アイルランド、マン島、イタリア、ジャージー、韓国、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、モーリシャス、メキシコ、モントセラト、オランダ、ニウエ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ロマーニャ、サンマリノ、セーシェル、スロバキア、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、トリニダード・ドバゴ、トゥルク・カイコ諸島、英国


来年2017年1月から導入される国は以下(2018年報告)

アルバニア、アンドラ、アンティグア・バーブーダ、アルバ、オーストラリア、オーストリア、バハマ、ベリーズ、ブラジル、ブルネイ王国、カナダ、チリ、中国、クック諸島、コスタリカ、ガーナ、グレナダ、香港、インドネシア、イスラエル、日本、マーシャル諸島、マカオ、マレーシア、モナコ、ニュージーランド、パナマ、カタール、ロシア、セント・キッツ・ネイビス、セント・ルシア、セント・ビンセント・グレナディーン、サモア、サウジアラビア、シンガポール、セント・マーチン、スイス、トルコ、UAE、ウルグアイ

日本と香港でのCRS導入は2017年からのようだ。


CRSの導入によって、報告が義務付けられるのは上記それぞれの国に所在するFI(Financial Institutions=金融機関)であり、FIには銀行をはじめ、保険会社、仲介ブローカー、投資運用会社、カストディアン、トラスト、ファンド会社などが該当する。

それらの金融機関が、グローバルに共有することとなる情報は以下のようなものだ。

*投資家の名前、住所及びタックスID(日本居住者ならばマイナンバー)

*法人または団体の名称、住所

*口座番号もしくは同様な認識機能

*報告金融機関(投資家の情報を提供する金融機関)の名称及びID

*口座残高もしくは口座バリュー、支払われた利子

2017年から導入されるシンガポールの金融機関(プライベートバンク)においては、今年から既に情報の整備が始まっており、おそらくシンガポールのプライベートバンクに口座を持つ顧客の所には銀行からその旨の連絡が来ているはずである。

今年から始める数年の間に、タックスヘイブンの金融機関を取り巻く環境は一変するだろう。

そして、タックスヘイブンを隠れ蓑にしていた、世界の富裕層の資産は果たしてどうなるのだろうか?

世界の流れとはいえ、世知辛い。