トケマッチはなぜ破綻したのか? | Mr.Gの気まぐれ投資コラム

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香港を拠点に活動する個人投資家であり、自称「投資戦略予報士」Mr.Gがお伝えする海外投資の生情報。
ねだるな勝ち取れ、さすれば与えられん!

 

ロレックスを買ったものの、使わずに眠っている」

「昔買った高級時計をお金に変えたいけど、何が良いかわからない」

 

「トケマッチ」は高級時計で収入を得たい人と、高級時計を手軽に利用したい人をつなぐ新しいサービスとして運営会社「合同会社ネオリバース」(大阪市中央区)により、3年前の2021年1月に始まった。

 

昨年8月には預かった腕時計が1500本に達するなど急成長を遂げたが、今年2024年1月31日に法人の解散とともに、サービスの終了が発表された。

 

破綻の理由についてははっきりしないが、貸し出していた時計が返却されないまま破綻したことが問題となっている。

 

投資家サイドから見れば、自宅に眠っている腕時計という資産を誰かに預けて、預かった会社がそれを顧客にレンタルし収益を得て、収益の一部を利子のような形で投資家に還元するという、シェアリングサービスの皮を被った投資案件というか、金融サービスだったように思われる。

 

査定額がどのようにはじき出されているのかは不明だが、100万円くらいの価値が査定される時計の場合、それをトケマッチに預ければ月に14,900円か19,900が預託料として支払われる。

(ゴールドプラン100万円以下14,900円 プラチナプラン150万円以下19,900円)
 

100万円を銀行に預けても殆ど利子は付かないが、トケマッチに100万円の査定が出る時計を預ければ、年20%くらいの収益が得られるといった感じだ。

 

高級腕時計のレンタルをしている会社はいくつかあるようだが、資産として自宅に眠っている時計を、買い取るのではなく預託という形で預かるシステムはトケマッチだけだったようだ。

 

これは、確かにシステムとしてはよく考えられており、預託契約として預託料を不労所得として受け取れるという部分が画期的であり、本来なら金融業法か貸金業の規制下に置かれるべき、お金ではなくモノ(高級腕時計)の預託料という名目で配当か利子を受け取る預金のようなものだったと言えよう。

 

ロレックス以外の高級腕時計は、大抵は価格は買ったときほど上がらないが、ロレックスに関しては価値のあるビンテージでなくとも機種によっては新品を転売するだけで儲かるほど需要と供給のバランスが崩れている。

 

これはエルメスのバーキンのような鞄でも同じ事が起こっているので、お金があって買いたくても正規店では手に入らないという現象が市場の転売価格を高騰させていく。

 

すでに、そのような価値のある時計や鞄を持っているひとは、それを今売るか、高くなろうが、今後安くなろうが持ち続けるかの選択肢かなかったが、そこにレンタルによって収益性を持たせるという第三の選択肢を提供したわけだ。

 

しかしながら、貸したものが帰ってこないというリスク(元本リスク)についてはあまり考えなかったのだろうか?

 

トケマッチが貸し出した先でも、借りパクされる可能性が当然あるわけで、お金を貸しているのと同じで回収できなかった場合には、オーナーの元本は毀損される。

 

もちろん、破損やメンテナンス上のトラブルも機械式の腕時計であれば発生するだろう。

 

預託料収入は雑所得として総合課税の対象だとしても、年20%の収益には惹かれるかもしれない。

 

このトケマッチの破綻事件を、銀行に当てはめてみれば、大した利子も付かないのに大切なお金をみんなが銀行に預けているが、銀行はそのお金を別の誰かに預金金利より遙かに高い金利で貸しだして儲けているのと似ている。

 

そう、あなたが銀行に預けているお金は銀行によって運用されておりそこにはない。

 

ただ、銀行がトケマッチのように破綻して、預けたカネが返ってこないとはだれも考えていないから預けているのだろう。

 

しかし、銀行もトケマッチと同じように、貸しだしたカネの回収リスクを背負っており、貸したカネが回収できないとか、もし誰もが不安になって、預金を引き出そうと(取り付け騒ぎが発生)すれば預金を回収できないひとが大量に出てくる。

 

日本円建ての預金であれば、預金保護の対象で1,000万円までは保護されることになっているが、今流行の外貨建て定期預金は保護の対象では無いので、いくら利率が良かろうと基本的にトケマッチと変わらない。

 

元本保証のないNISAで投資信託を買っていても同じ話だ。

 

結局、破綻したトケマッチのビジネスは、お金ではない資産を運用して配当を出すという、不動産賃貸管理会社のようなビジネスを高級腕時計でやった画期的なものだったが、不動産のように持ち逃げできないものと違い、現金化が簡単で流動性が高かった点が敗因なのだろう。

 

同じビジネスを、メガバンクが提供していたらどうだっただろう?

 

いや、銀行ならその高級腕時計を担保にカネを貸す(質屋のビジネス)になってしまうので銀行はやらないか。

 

現金以外の資産は、銀行にとっては担保性が全てで有り、その担保評価額によってカネを貸すのが本業だ。

 

銀行にロレックスを預けて、金利が20%付くのであれば預託するひとはいるかもしれないが、それが確実に20%以上の収益を生み出すのなら、銀行はみんなが預けたカネでロレックスを買ってレンタルするに違いない。

 

それを銀行がしないのは、お金ではくモノを預かって利子や配当を出すというリスキーなビジネスをわざわざやる必要がないからに過ぎない。

 

また、本来は銀行にしかできない他人のお金を預かってそれを貸しだして儲けるビジネスを、モノで行うビジネスモデルは政府が金融業法で管理できず、銀行の特権に反するシステムだったのかもしれない。

 

トケマッチの破綻の原因は分からないが、そもそも存在していた現物リスクはともかく、そのようなシステムが幅をきかせると政府や既得利権者の金融機関にとっては都合のわるいものだったという点は否めない。