太極拳の足腰(1) | 健康・護身のために太極拳を始めよう

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太極拳は、リラックスによるストレス解消、血行改善、膝・腰強化、病気予防などの健康促進効果以外に、小さな力で大きな力に勝つような護身効果もある。ここでは、中国の伝統太極拳の一種である呉式太極拳の誕生、発展およびその式(慢拳・快拳・剣・推手)を紹介する。

原文:有不得機得勢之処,身便散乱,其病必於腰腿求之,上下前後左右皆然。

 

訳文:どこか時機・優位性を失すると身体が散乱となる。その病因は足腰からしか見当たらない。上下も前後も左右も然ることなり。

 

推手では、相手と手を接すると負荷を受けることになる。負荷は入り口(接点)の手から体に入り、その隣接の関節である手首、肘、肩を含め、先ず上半身に伝わる。それが影響として体に現れるかどうかだ。影響とは、相手からの体への負荷の侵入が関節において阻止され、その負荷を関節でまともに受けるということだ。阻止する関節や筋肉の抵抗力がその負荷より大きい場合は体の均衡が力で保たれるが、逆の場合は均衡を崩しかねない状態に陥る。

 

関節や筋肉の力で均衡が保たれても生まれつきの本能によるもので太極拳の原理によるものではない。その結果、力の大きいほうが勝ることになる。しかし、本能としての力は幾ら大きくても相手の変化に対する反応が鈍く時機を敏活に捉えられず、優位性を手に入れることが困難なのだ。

 

一方、相手によるこの負荷から逃れようと負荷の入り口(接点)を無くす、即ち相手の手から自分の手を離すと、即座に主導権を奪われ、新しい接点をつくられ、窮地を追い込まれることになる。逃避の度に時機・優位性を失い、つい均衡を崩される羽目になる。意図的に手を離さなくても手が離れる傾向になるだけでも同じく主導権の放棄となり、その結果、相手に時機・優位性を与え、追いやられることになる。

 

上記2パターンは推手の典型的な病で、前者は「ding」、後者は「diu」と言われるものだ。その病因は必然的に足腰の部分から見つかると、《太極拳経》で語られている。足腰の病→「diu」・「ding」→『どこか時機・優位性を失する』→『身体が散乱となる』という因果関係があると筆者が見ている。では、上半身に現れる「diu」と「ding」の病因はなぜ足腰にあるのか。

 

相手からかかった負荷が手の接点から手首、肘、肩、胸、腰、股関節、膝、足首、足元の順に体へ入るが、その中のどこかで拒まれるとそれ以降に伝わらなくなる。その拒みは意図的なものに限らず、意図的に拒まなくても負荷がそこの部分を通りにくかったら拒みとなるのだ。その意図的又は非意図的な抵抗は体に不均衡を生じさせ、上下一体となる協調的な動きが取れず、身体が散乱となる。しかし、相手からの負荷は不均衡をもたらす起因ではあるが、その負荷への処理がうまく行けば、逆に相手の均衡を崩すチャンスでもある。問題はその処理だ。負荷への処理がうまく行かなければ先ず上半身が動かされる。上半身のその動きについて行けないのは下半身、つまり足腰だ。そのギャップは上半身の抵抗の大きさに比例し、負荷の足腰への通り具合の良さに反比例する。