回答 | 月のベンチ

月のベンチ

両親の闘病記

以下、今日、メールでご回答いただいた内容です。


少し予想を超えた回答だったので、頭や心の整理をつけながら


これから先のことを考えて行きたいと思います。





意識障害者は次に脳卒中が起きても、中々症状を見極めることができません。


すでに四肢麻痺であり、意識がないので、判断が難しいのです。


母は2012年9月には大学病院でCT検査をし、脳には新しい変化はないと


脳外科医の診断を受けていました。


その後、脳梗塞か脳出血等があったのかもしれません。











【回 答】













回答: 2010/9にくも膜下出血で発症されて、その後急性硬膜下血腫や、血管れん縮による脳梗塞なとの合併症があり、現在意思疎通が出来ない状態ならやはり脳の機能低下はかなりあると思われます。


お送りいただいた写真では、左上肢は伸展されかつ外旋位で手首は屈曲していますから、これは典型的な除脳硬直の時に見られる肢位です。


手の写真ではすべての手指が屈曲して親指が他の4本の指の内側に入っています。これは新生児が拳を握っているときと同じ指の形です。


生まれたばかりの新生児は大脳はありますが、まだ機能していないので、このような手の形をとります。


大脳の神経繊維が完成して大脳皮質が機能してくる生後6ヶ月頃より、5本の指を使って物をいじったり、つまんだり出来るようになり、じゃんけんのグ-の様に、親指が他の4本の指の外に出る拳の握りかたになります。このことから、お母様の大脳皮質機能の低下はかなり重篤であることが想像されます。


口周囲の写真では左の鼻唇溝が浅く、左口角が下がっているので、顔面左半分の麻痺があるように見えます。


首の写真では顔が左を向いて、右の胸鎖乳突筋の緊張が見られます。全身の写真や動画がないので確実なことは言えませんが、少なくとも左半身の麻痺と除脳硬直はあると思われます。





昨年夏頃から筋緊張が亢進、冬ころにはジストニアと思われる症状が目立ちはじめたとのことで、ジストニアではないかとご心配のこととお察しします。


ジストニアという名前の意味するものは、「ジス」は「不全」や「異常」などという意味で、「トニア」はト-ヌス(緊張、この場合は筋緊張)という言葉からでた「緊張症」という意味です。従って、広い意味ではすべての筋緊張の異常はジストニアと呼べる訳ですが、普通、神経内科などでジストニアという時は、随意運動の出来る人に起こる、自分ではコントロ-ル出来ない筋緊張の亢進による不随意運動のため、奇異な姿勢をとる症状を言います。この奇異な姿勢が頸部に起こると痙性斜頸、体幹に起こると躯幹ジストニアとなるわけです。典型的な症状は http://www.youtube.com/watch?v=87LDJqjSduo
 http://www.youtube.com/watch?v=6Vi3gSRIPkY
  などで見ることが出来ます。現在のお母様の症状は基本的には除脳硬直であると思います。


除脳硬直姿勢は添付ファイルに示すような姿勢です。お母様の場合はおそらくこれに片麻痺の症状が加わって複雑な姿勢となっていると想像します。







DBSの適応については、残念ながらお母様の場合、効果はないと思います。仮に効果が期待出来るとしても、体内に電極や刺激装置などの大きな異物を植え込む手術は感染の危険もあり体力が低下している場合はその危険性はさらに大きくなります。




http://www.youtube.com/watch?v=UJ-uAvbeUJE
 に出てくる平先生はこのような治療の第一人者ですが、平先生もお母様には手術を勧めないと思います。脳卒中などで
重症の後遺症のある遷延性意識障害の患者さんは除脳硬直姿勢である場合が時に見られます。


このような姿勢は眠っている時には筋緊張が比較的低くなるので、目立たない場合もありますが、覚醒すると筋緊張亢進のために除脳硬直姿勢が目立つこととなります。


しかし、ある程度長い期間この姿勢であると、この肢位で関節の強直が起こり筋緊張が低下してもこの姿勢のままになります。


お母様の場合最近になって筋緊張が高くなってきて、体に触れると緊張が亢進するとのことですが、いくつかの可能性が考えられます。第一に、筋緊張が変化した理由として、脳梗塞などの新たな血管障害が加わった可能性があります。


健常者に脳血管障害が起こると、その症状が明らかに判るために気がつかれますが、障害の強い人に新たに脳血管障害が加わると、それまでの症状にカバ-されてそれがわかりにくい場合があります。


また、時として、新たに加わった障害により今までの症状が変化して、「緊張がとれた」などの良い変化としてとらえられる場合すらあります。しかし、このような状態が実際に起こっていたとしても、それに対する根本的な治療は非常に困難な場合がほとんどです。


第二の可能性として、覚醒時に筋緊張を高める様な要因はないでしょうか。


例えば、褥瘡による痛みが常にあったり、不自然な姿勢で臥位をとったり、長時間同じ姿勢で寝ていて、痛みを感じていることなどはないでしょうか?安楽な姿勢をとらせるためには頻繁な体位交換や手足を枕やクッションでうまく支えることなどが必要です。


しかし、このような注意をしても、除脳硬直のような異常な筋緊張を緩和することは困難な場合が多くあります。


○○に入院している患者さんの中にも、年単位で除脳硬直や除皮質硬直による筋緊張の異常が時間と共に強くなっていく場合があり、その治療には苦労しています。


場合によっては、中枢性の筋弛緩薬を処方することもありますが、中枢性筋弛緩薬のほとんどは眠気をともないますので、覚醒レベルは下がることになり、誤嚥性肺炎などの可能性が高くなるので、その使用には得失を十分に理解した上で使用する必要があります。


このような患者さんのリハビリでは関節可動域を保って、更衣などのケアの際痛みを感じたり着衣の脱ぎ着が困難にならないようにすることが目標になりますが、実際の場面では関節の他動的運動などのリハビリで関節の可動域を維持したり改善させるのは困難な場合も多いのは事実です。








以上