駅に着くといつもの駐輪場に自転車を乱暴に押し込む。
カギをかける時間ももどかしく視線はすでに駅のほうに向かってる私は、
そのままドタバタと慌ただしく走り始めた。

その日は出勤前にホットヨガの体験教室があったのだ。
仕事と言っても今日はいつもお世話をしている伯母の介護の仕事。
時間的にも融通がきくので伯母のところに行く前にホットヨガの体験教室の予約を入れていた。

駅のエスカレーターを駆け上ると、
ホームに電車が到着する寸前だった。

朝の9時過ぎ…

通勤ラッシュもおさまりつつあるけど座れるほど空いてもいない。
つり革につかまりぼんやり外を眺める。


「あ、そーだ!LINEきてたんだ」


カバンからスマホを取り出すと、
さっきと変わらずLINEの通知が1通。
お気に入りの待ち受け画面の上に図々しく乗っかっている。
待ち受け画面からは誰のLINEかわからない設定にしているのでロックをはずしてLINEの画面を開いた。

やっぱりダンナからだった。
やっぱりダンナ???んんん??
トーク一覧を開くと最初の部分の言い回しがいつもとは違う敬語での文字の羅列…


「誰かと間違えて送ってるんじゃないのぉ〜 笑」


なんてココロの中でツッコミを入れながらダンナのトーク画面を開く。


「こちらは救急病院です。
  中里賢治様のご家族様の携帯でよろしいでしょうか?
   大至急以下の番号までお電話ください。」


飛び込んできたのは予想外の展開を示す文字達。


「ちょっと待ってよ〜
朝っぱらからきついジョーダン?
それとも何かの間違え?」


文章がまるっきり理解できない。
これって日本語だよね?
なんてちんぷんかんぷんな事まで思い浮かんでしまうほど文章も状況も理解できない。

電車はいつのまにか地下に入り、
さっきまで車窓から見えていたのどかな川面の風景はかき消され、
まるで墨汁をひっくり返したかのような暗闇を走り始めていた。

ガタンゴトン…

電車の振動なのか自分の心臓の音なのかもわからない。

もう一度LINEを読み返してみる。

確かにダンナのスマホから送られている。
いつものダンナのLINEに間違いない。
間違いないとしたら誰がこのLINEをダンナのスマホから送っているの?
病院?病院ってなんだろう?

頭の中がどんどん「?」マークで埋め尽くされていく。

自宅最寄り駅から隣の駅まではわずか5分…
その5分の間に開いたいつものLINEが、
いま私の何かを変えようとしている…


「とにかく降りよう」


そう思った時には隣の駅のホームがパラパラ漫画のように、
車窓のひとつひとつを流れていった。

次の駅までもう5分…

ガタンゴトン…ガタンゴトン…

車窓の外の暗闇が不安を煽る


5分後にいったい…
何が待ち受けているんだろう?


怖い…


※登場人物は仮名です