法事も無事終わり予定通りホームセンターに向かうことになった。

ホームセンターでの目的はダイニングテーブルの購入。
ウチにあるダイニングテーブルは、
ダンナが前の会社の社長から無理矢理譲り受けたもので私はそのテーブルが大嫌いだった。

ダンナは結婚生活25年の間に4回も転職をしている。
その中でも今の会社に入社する一つ前の会社は最悪だった。

転職する寸前は給料未払いが暫く続き、
結局未払いのまま会社は倒産してしまった。
だから未だに支払われていない給料が三桁単位で残っている。
おかげで貯金も使い果たして我が家はどん底に陥った…

結婚生活25年の間で、
これが三度目のどん底…

二度目までのどん底については後々綴りたいと思う。

その倒産した会社の社長というヤツがとんでもないヤツで、
まるで自分が教祖にでもなったかのように社員達をマインドコントロールしていた。
感化されやすいダンナもそのひとりで、
社長の言うことは絶対、
社長の言うことは間違いないと、
ろくに休みも取らずにまさに真っ黒な会社の歯車となって働き続けた。
私は何度も早く見切りをつけたほうがいいと言ったけど、
ダンナが私の言うことなんて聞くはずがない。
結局倒産寸前まで会社を信じて粉骨砕身していたけどあえなく撃沈。

そんないわくつきの社長からもらったダイニングテーブルなんて縁起でもない。

そのテーブルだって社長が自分の家のテーブルを買い替えるから、
要らなくなったテーブルの粗大ゴミ代をケチりたいが為にダンナに押し付けてきたんだと思う。
私はテーブルを貰うことに大反対だったけど、
調子のいいダンナは、


「いやぁ〜高価なテーブルをタダで貰えるなんてツイてるなぁ〜」


なんて私の反対なんてまるっきりスルーで、
呑気に笑いながら素直に喜んでいた。

そんな調子のいいことを言っていたダンナも、
さすがに会社が倒産してようやく目が覚める。

だから一日でも早くそんな気持ちの悪いテーブルは捨ててしまいたい。
でも高価な買い物になるだけに、
生活に困窮していた我が家はテーブルを買い替えることがなかなか出来なかった。

そして…
今の会社にダンナが転職してようやく4年。
一昨年の秋あたりからようやく生活も安定してきた。
今度の会社は僅かながらもボーナスもまともに出る。
これが普通の会社で当たり前なのかもしれないけど本当にありがたい。
これでいわくつきの気持ち悪いテーブルとも、
ようやくサヨナラできる。
それで夏のボーナスも出ることだし、
この機会におもいきってテーブルを買い替えることにした。

ホームセンターに入ると真っ先にダイニングテーブルが並んでるコーナーに向かう。
広い売場一面に様々なテーブルが並んでいる。

デザインに価格、大きさ…
悩みに悩んでいた。

ふと時計に目をやると売場にきてから30分近くが過ぎようとしていた。


「マズイ!!」


このままでは短気なダンナがまたイライラしてくる。
まったくいつまで悩んでるんだ!と、
肩をいからせながら間もなく私のところにやってくるだろう。
フロアの隅からダンナがこちらに向かって歩いてくる。

私は一瞬うろたえていると、


「あっちのほうにもいいのがあったよ」


なんて私の数メートル手前でダンナが手招きしてる。
予想できない展開に拍子抜けしながらダンナの後ろをついていくと、


「今までのテーブルより大きいのにする?」


なんて穏やかに話しかけられた。

これもフツーのことなのかもしれないけど、
いつもだったらダンナとこんなに穏やかには話せない。


「ま、あなたが気に入ったものを買えばいいよ」


なんて気持ち悪いぐらいの笑顔を私に向けるダンナ。


「椅子は俺はこれがいいなぁ〜」


ビックリするぐらいフツーの夫婦の会話だ。
こんなに穏やかにダンナと話せたのは何年ぶりだろう。
もうずいぶん長いことまともに顔さえ見合わせていない。

テーブルの大きさも最後まで悩んだものの、
結局今までと変わりないサイズで買い物を終えた。

こんなに穏やかに、
こんなに当たり前の夫婦のように買い物が出来るなんて…
あまりにもの珍しさから帰宅すると真っ先に子供たちに今日の買い物での出来事を話したら、
子供たちも目をまるくしてビックリしてた。

私にとっては本当にあまりにも珍しく、
いつもと違う穏やかなダンナのことがその時は不思議で不思議でたまらなかった。


2017年6月の上旬…


運命の日まであと1ヶ月余りの出来事だった。