「さっき病院に電話をしてもう一度確認をしたんですけど既に息を引き取ったようです…」


息を引き取ったということは死んでしまったということ…
死んでしまったということは、
もうこの世にダンナは存在していないということ…
死んでしまったって、
この世に存在していないって一体どういうことなんだろう?

ダンナの弟からの電話…
それはダンナの人生終了をお知らせする電話だった。

私の指先はもはや血の気がなく氷のように冷たくなっている。
歯がガチガチ音を立ててうまく話せない。
身体中の力が全部抜け放心状態のままスマホを握りしめていた。


「ママ?どうしたの?電話、誰から?」


長女が心配そうに問いかける。


「パパね…もうね…死んじゃったんだって…
もうね…もう…いなくなっちゃった…」


そんな様なことを言ったと思うけど、
衝撃的なダンナの弟の言葉を聞いて正直そのときの記憶が飛んでしまっている…
飛んでしまっているというかあまりよく憶えていない…

涙が引きかけた子供たちの顔が、
私の言葉で再び水浸しになっていく…
泣きじゃくる長女と次女の背中をさすりながら、


「早く皆んなでパパを迎えに行こう…」


私は…そう子供たちに言うのが精一杯だった。

とにかくダンナに1分でも1秒でも早く会って確かめたい。
ダンナに会わないことには、
いま自分の周りで起こっていることが真実かどうかもわからない。
もしかしたら誰かが大掛かりで趣味の悪いサプライズイベントを仕掛けているだけかもしれない。
最後にはプラカードを持った芸人が、
奥さん騙されましたねぇ〜ってオチャラケて登場なんてことだってあり得る。
そう思い始めると周りの人たち皆んなが大嘘つきに思えてくる。

ほんの11時間前までは確かにダンナと家族LINEで話しをしてた。
調子が悪いなんて一言も言ってない。
相変わらずの酔っぱらいで冴えないおやじギャグも健在だった。
それだけ当時の私はダンナが死んでしまったことがまるで信じられなかったのだ。

私たちは着の身着のまま、
数日分の着替えをスーツケースに押し込めると慌しく家を後にした。