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ダンナが荼毘に付される寸前から私の記憶は飛んでいる…

私は目眩を起こして倒れそうになり、
娘たちに抱きかかえられながら控え室に向かう。

控え室に入ると既に精進落としの準備が整っていた


「雫、大丈夫?」


そう声をかけてくれたのは高校時代からの友人。

告別式の終わりに最後まで見送らせて欲しいと申し出てくれ、
ダンナも知る友人だったので有り難くここまで来てもらうことにした。

古くからの友人が傍に居てくれるのは何より心強い。


「うん…ちょっと気分が悪くなって…
でも、もう大丈夫だから…」


額に滲み出た嫌な脂汗をハンカチで拭きながら差し出された水を飲み干す。


「それでは、献杯!」


献杯の音頭をとってくれたのは義父。

具合が悪くなろうと、
喪主という立場である限り今は休むことが出来ない。

係の方から精進落としで出されるビールや烏龍茶の本数を聞かれた後に紙を渡され、
火葬場の使用料と飲み物の支払いを済ますように言われた。

案内されるがままに会計窓口に向かうため控え室の外に出ると、
廊下の両側にさまざまな広さの控え室がズラッと並んでいるのに気づく。

そしてどの会場にも使用中の札が掲げられていた。


「いつもこんなに混み合っているんですか?」


平日なのに空室がないように見え、
案内をしてくれているスタッフの方に思わず声をかけてしまう。


「えぇ、そうですね、毎日こんな感じですよ
なかなか予約も取れないみたいですしね。」


同じ建物の中で、
こんなに多くの方たちが一斉に荼毘に付されるなんて…

廊下の先を進むと大きな吹き抜けの窓が見えてくる。

青い空に点々と広がるちぎれた雲…

その雲のひとつひとつが、
まるで荼毘に付された方たちの魂の化身のように思えて仕方なかった。


「ダンナはまだあの雲の上まで辿り着いていないのかな…」


会計窓口に着き支払いを済ませると、
私は足早に控え室に戻りビール瓶を持って席の端からお酌をしていく。


「賢治はそんなに具合が悪かったのか?」


お通夜の時から繰り返される同じような話題
さすがにもううんざりだけど、
ダンナの親族だけに露骨にイヤな顔も出来ない。


「皆さま、大変お待たせいたしました。
収骨室までご案内いたします。」


1時間半ほどしたところで係の方から案内があった。

収骨室に案内されると係員の男性がふたり部屋の中央で待機している。


「それではかなりの高温になっておりますので皆さまお近づきにならないよう、
しばし離れてお待ちくださいませ。」


注意を促されたあとガラガラとストレッチャーのようなものが運ばれてきて、
その上一面に白い固まりが散らばっているのが遠目に見える…


「え???」


その光景を目にした瞬間、
私も娘たちも動けなくなる…


「こちらが喉仏です。こちらが…」


係員の方が何かを説明している。


「パパ…だよね?…」


次女が思わず呟く…


「おふたりで一緒にお骨上げをお願いいたします。」


係の方の声にハッとしたように、
長女と次女がおそるおそる前に出て一緒に骨を拾い上げ始める…


「パパ…骨になっちゃったんだ…
こんなに小さくなっちゃったんだね…」


私も娘たちの後に続き、
隣で母と一緒に骨を拾い上げながら涙がこみ上げてくる…

1週間前まで生きていた人が…

たったの1時間半で骨になってしまうなんて…

そして…

ダンナのカラダ全部が、
とうとう小さな白い壷の中に納められてしまった…


「下のほうをしっかり持って抱きかかえてくださいね。」


渡された骨壷はまだ温かい…

そしてズッシリと重い…


「パパ…これでやっと家に帰れるね…」


さぁ…


皆んなで…


家に帰ろう…