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ダンナが亡くなってから3ヶ月を過ぎた頃…

職場でのある出来事がきっかけで、
仕事中に涙が出そうになったことが一度だけあった。

私は販売の仕事をしているけど、
いつも決まった売り場で仕事をしているわけじゃない。

だからその時によって一緒に仕事をするメンバーもバラバラ。
お初の人もいれば顔馴染みの人もいる。

その日に配属された売り場は、
たまたまお初の人が多かった。

お初の方たちは私よりもずいぶん年上のお姉さまばかりで、
お姉さま同士は顔馴染みなのか、
仕事中でもお客様がいない時はおしゃべりに花が咲きっぱなし。

当たり前だけど仕事中は、
基本お客様がいない時でも私語はNG。

でも話しの合間合間にお姉さま方は私に同意を求めるように、


「ねぇ〜、あなたもそう思うでしょー?」


なんていきなり会話が飛んでくる。
会話が見えない私は適当に笑顔で相槌を打ちながら、


『仕事しろよ〜!!!』


なんて心の中でパンチングポーズを作っていた。

お客様が途切れてヒマになってしまった昼下がり…

お姉さまたちのおしゃべりはヒマをいいことに満開状態(苦笑)

そんなとき…


「いっそのこと死んでもらっちゃったほうがいいわよねぇ〜」


そんな会話が突然私の耳を突き抜けた。

ダンナが亡くなってまだ3ヶ月とちょっと…

どうしても『死』という言葉には敏感になってしまう。


「凄いお金が入るらしいわよ〜」


途切れ途切れに会話のワードが飛んでくる。
思わず私はカラダをお姉さまたちの方に寄せ
仕事をしながら聞き耳を立てた。


「やっぱりそうなの?」

「そ〜よ〜!近所でもいるのよ〜
ダンナさんが死んでから毎日のように、
エステだジムだって贅沢三昧で遊んでる奥さんがね。
優雅で羨ましいわよ〜」

「だって死んじゃえば、ホラ、家のローンも失くなるんでしょ?
それに保険金も入るしねぇ〜
しかも子どもが高校卒業するまでは母親も医療費無料だって!
遺族年金だ母子手当だって何かにつけて相当お金が入るみたいよ〜」

「今からダンナにいっぱい保険かけとけば遊んで暮らせるわね(笑)」

「ほーんと!真面目に働くのがバカらしくなるわ(笑)」


なんの話題からそんな話しになったかは判らない。

でも話しの内容からして未亡人の人の話しをしていることだけは判った。

耳につく甲高い声に笑い声…

だんだんそれに耐えられなくなった私は、
同意を求められるのがイヤで、
少しずつお姉さまたちからカラダを元の位置にズラし遠ざかる…


『世間の人は未亡人で母子家庭の人に、
そんなイメージを持ってるんだ…』


世間のイメージと自分とのギャップの差にやりきれなくなる…

悔しいのか…
バカにされたように勝手に思ってしまったのか…
なんなのかわからないけど、
じんわり涙が滲み出そうになるのをグッと堪えた。

確かにそんな優雅な未亡人も世間にはいると思う。

事実、私の叔父も仕事帰りにバイク事故に遭って還らぬ人になったけど、
叔母は相当な額の保険金を貰ったということを母から聞かされたことがある。

たまたま叔父は事故に遭う前に保険の見直しをしていて保険金を増額していたらしい。

それに叔父には過失がなかった為、
衝突した乗用車の相手からもかなりの額の賠償金を貰った。

しかも仕事帰りの事故だったので労災かどうかまではわからないけど、
会社からも相当な金額の保険金を貰ったという。

叔母はそのお金で東京の住みたい街ランキングに入る人気の街に立派な注文住宅を建てた。

仕事も辞めたらしい。

でも…

世間の未亡人の全部が、
叔母のような暮らしをしているとは限らない

家も財産もあって相当な金額の保険に入っていれば、
確かにダンナが死んだら優雅に暮らしていけるのかもしれない。

でも、そんなふうに優雅に暮らしている未亡人はきっとごく僅か…

ごく僅かだとは思うけど、
そのごく僅かな未亡人の人のイメージが世間では根強いのかもしれない。


『私もダンナが死んで、
たくさんお金を貰っていいなぁ〜って周りから思われているのかな…』


何を言われるかわからないから、
絶対にお姉さまたちには私が未亡人だということは言えない。


未亡人は優雅…


世間のイメージなんてホントに勝手で
私にとっては迷惑でしかない…