朝日新聞 2011.12.1 
京都大学教授 佐伯啓思
抜粋・要約

-民主主義って?

日本人は、民意がストレートに政治に反映すればするほど
いい民主主義だと思ってきた。
その理解そのものが間違っていたんじゃないか。

古代ギリシャの時代から、民主主義はほおっておけば
衆愚政治に行き着く、その危険をいかに防ぐか、
というのが政治の中心的なテーマ。
だから近代の民主政治は
民意を直接反映させない仕組みを組み込んできた。

政党がさまざまな利害をすくいあげ、
練り上げてから内閣にもって行くということで
民意は直接反映しない。

2院制もそうで、下院は比較的民意を反映させるが
上院はそうでないことが多い。
実際の行政を、選挙で選ばれるのではない官僚が中心になって行うのも
その時の民意に左右されず、行政の継続性、一貫性を担保するため。

そういう非民主的な仕組みを入れ込むことで
実は民主政治は成り立ってきた。

-日本だけでなく、欧米でも民主主義が機能不全に陥っている。
グローバル化によって、政治が解決すべき問題が複雑になりすぎた。
そういう状況では、国内の民意を政治に反映するという
単純な民主主義は根本的にうまくいかない。
いつまでたっても問題が解決しないので、民衆の不満が高まり
政治批判や官僚批判が出てくる。

-日本では1年ごとに首相交代。
ある意味で民主主義が進みすぎた。
国民の政治意識の高まりを伴わないまま
民意の反映を優先しすぎたために
非常に情緒的でイメージ先行の民主主義ができてしまった。

-民主主義がうまくいかないとどうなるのか
グローバル化、資源・食糧の不足、国家間の競争激化
国家間の競争に勝ち残るためには国内の不満を抑えなくてはならないので
強力な政府を必要とする。その極端な例が独裁。

-独裁の流れをとめるには
国民の政治意識を変えていくしかない。
まず、民主主義の理解を変える。
民主主義は不安定で、危険をはらんでいることを前提に
どうすれば民主主義を維持していけるかを考えなければ。
メディアの役割りも重要。
政治に性急な問題解決を期待しないこと。