和香堂ブログ11 失われたものを数えるな

 

大西です。お元気でお過ごしでしょうか。とても久しぶりのブログになってしまい

ました。

 いつも和香堂ブログを読んでくださっている方、フォロワーになってくださってい

る方、本当にありがとうございます。みなさんに読んでいただけるのだと思うととて

もうれしく、執筆の励みになります。

 初めてこのブログを読んでくださる方、ようこそ和香堂ブログへ。何かを検索して

このブログに偶然出会った方、お知り合いのご紹介でこのブログを探してくださった

方、いろいろなはじめましての方がいらっしゃることでしょう。過去10回分の記事

も併せてお楽しみいただけたらうれしいです。

 

 9月から10月にかけて、気候の変化がものすごかったですよね。寒暖差、長雨、

台風、低気圧などなど。いつもは朝シャキッと起きられるのに、今シーズンはだるく

てなかなか起きられない。頭が重くてめまいもする。地面に引きずられそうな感じさ

えする。などなど、例年にない不調を口にする方に、たくさん出会いました。私自身

もそうで、施術中は変わらず元気なのですが、家へ帰るとどうにも動けないという日

々が続きました。

 今はもう元気復活です。まだまだ気温の安定しない日々が続きそうですが、みなさ

んもどうかご自愛ください。

 

 自分と向き合いたくなった時によく立ち寄る場所があります。和香堂へ向かう途中

の歩道の片隅にある、木製のベンチです。

 この間、和香堂からの帰りに、久しぶりにこのベンチに座りました。やらなければ

ならないことや考えなければならないことはたくさんありました。でもこの日は、そ

ういったことは後回しにして、1時間このベンチに座ろうと決めました。

 この日の気温は30℃弱。よく晴れていて、木陰のベンチは心地よかったです。さわ

やかな風が私の髪をさらさらと揺らしていて、近くではまだまだ育ちそうな木の葉が

心地よい音を立てていました。歩道にはもう落ち葉が少したまっていて、風に乗り舞

っていました。いつの間にか、秋が深まってきていたのですね。何人かの患者さんが

言っていました。今年ももうすぐ終わってしまいますね、お盆が過ぎると早いですよ

ね、と。

 秋の深まりに身を任せ、考え事も風に流し、1時間ベンチで過ごしました。そして

、頭にふわふわと広がってくる自分のいろいろな気持ちと向き合い、受け止めること

ができました。すがすがしい気分でベンチから立ち上がり、いつもの道をちょっと軽

やかに家へ向かって歩き始めることができました。

 

 今年ももうすぐ終わってしまう。やらなければならないこと、考えることがたくさ

ん。これからの時期は慌ただしく、体調も落ち着かなくなることが多いかもしれませ

んね。そんな日常にあっても、時には思い切って自分のための時間を切り出して、そ

の時間をじっくりと過ごせたなら、心も体もより穏やかになれるかもしれません。

 

 私は進行性の目の病気の患者です。幼い頃は見えにくいと感じた記憶はほとんどあ

りませんでした。ですが小学生の時に、大学病院の先生から直接告知を受けました。

私が目の病気を患っていること、そして、私が将来失明するかもしれないということ

 私の目は毎年少しずつ見えにくくなっていきました。家族や親戚にも、高校までの

友達や同級生にも、目の見えない人は一人もいませんでした。そのため、自分がもっ

と見えにくくなったらどうなるのかが想像できず、何度も不安になり弱気になりまし

た。できていたことができなくなっていくやるせなさや虚無感に、何度も目の前を遮

られて。ですが、人に支えられ、前を向いて進むことができました。

 

 私は高校卒業後、点訳サークルに入りました。その頃はまだ、鉛筆ですらすら字や

絵が書けていて、自転車にだって乗れていました。自分がもっと見えなくなった時の

ために点字を覚えたいと思い、勇気を出して入会したのでした。やさしくて個性にあ

ふれる先輩や仲間たちに恵まれ、楽しいサークル活動を満喫できました。あの頃に夢

中で覚えた点字が、今の生活にとても役立っています。

 

 失われたものを数えるな、残されたものを最大限に生かせ。

 最近さらに見えにくくなったと実感するようになって、この言葉がたびたび頭に浮

かんできます。

 

 失われたものを数えるな、残されたものを最大限に生かせ。この言葉は、点訳サー

クルに入った頃、誰よりも点訳の規則に厳しく、徹底的にご指導くださった先輩から

、教えていただきました。この言葉は、将来視力を失うかもしれないという不安を心

の奥に押し込めていた、当時の私のその心の芯に、強く響きました。

 

 先輩から教えていただいた言葉は、医師 ルートヴィヒ・グットマン博士(Ludwig

 Guttman、1899年~1980年)の言葉です。

 グットマン博士は、ロンドン郊外のストーク・マンデビル病院で、第二次世界大戦

の傷痍(しょうい)軍人を治療していました。失われたものを数えるな、残されたも

のを最大限に生かせ、という言葉は、病院で傷痍軍人たちにかけていた言葉なのだそ

うです。

 

 グットマン博士は障害をもった傷痍軍人のリハビリテーションにスポーツが適して

いると考え実践しました。1948年にロンドンオリンピックにあわせて、病院内で入院

している車いす患者のアーチェリー大会を開催しました。この大会はその後発展して

いき、1960年、ローマオリンピックの年、ローマで23か国が参加する国際大会にま

でなりました。この大会が後に第1回パラリンピックと認定されました。グットマン

博士はパラリンピックの父と呼ばれているのです。

 

 和香堂での施術中に、患者さんがよく話してくださいます。日常生活で積み重なっ

ていく心や体のつらさ。よりお元気だった頃に頑張ってきたことなど。患者さんの生

活や人柄、気持ちを思いながら、心や体のつらさを少しでも軽くできるよう、丁寧な

施術を心がけています。

 

 和香堂へはいろいろな患者さんが来院されています。疲れがどっしりとたまった時

に重い足取りで訪れる方。痛みや重だるさなどの不快な症状をどうにか改善してほし

いと思っている方。病院へ通っていても病気の回復が難しく、それでも少しでも楽に

なれたらと願っている方。患者さんはなぜ和香堂に何度も通ってくださるのでしょう

か。

 60分、90分といった長い時間、ゆっくり丁寧に、一人の施術者が一人の患者さ

んに向き合えるところが、鍼灸マッサージ治療院の良さなのだと思います。施術によ

って、患者さんの血行が良くなり、また、ゆっくりお話ができたり少し眠れたりもし

て、患者さん自身がリラックスできます。そのようにして、患者さん自身が持ってい

る自然治癒力を引き出すきっかけが作れているのでしょう。

 施術によって、疲れや症状がすっかり良くなる方がいます。一方、施術後楽になっ

ても、それまでと同じ日常生活で負担がかかり、しばらく経ってまた疲れや症状が戻

ってきてしまう方もいます。定期的に施術を受けていただくことで、心身ともに楽に

なってリラックスできる時間がさらに長くなっていけるでしょう。それを実感された

患者さんが、きっと続けて和香堂へ来てくださっているのだと思います。

 

 ネット予約で初めて和香堂へ来られた患者さんの多くが、鍼灸マッサージ治療院が

どんなところかわからず不安だったそうです。そんな患者さんも、一度和香堂で施術

を受けていただいた後は、緊張せずに受けられたと、和らいだ声で話してくださいま

す。

 

 患者さんが施術によって、来院された時よりも明るい声で帰られる。その時に私た

ちもとてもうれしくなります。何かつらいと感じた時には、ぜひお気軽に施術を受け

ていただければと思います。