こんにちは、アリーシャです。

 

川上未映子の「夏物語」をブログのコメント欄でおすすめされたので読んでみたのですが、衝撃を受けました。

 

ここまで生々しく、セックスのこと、子どもを産むこと、女性が男性に求めることのそれぞれの女性の本音をここまで書いてよいのか?というというほどしっかり描き切っていることに驚き、その熱量に圧倒されました。それでいて、まったく下品にならずどこか凛として透明感のある文章の美しさは川上未映子の素晴らしい文体のせいなのか・・・。とにかく、しっかり文学しているんですよね。

私の感想では伝わらないと思うので私がここはすごいと思った本文の数か所を引用したいと思います。

 

ある日独身女編集者が酔っ払って主人公に言った言葉。

 

「でも、今思うと子どもがいなくてよかったなあって、わりと思いますよ。(中略)子育てでくたくたになった同僚から愚痴を聞かされたりするたびにね、この人たちはなんて浅はかで身勝手なんだろうって思うんです。本当に思う。だってそうなることってだいたい察しがつくじゃないですか。そのうえであなたたちが好きでやったことなのに、いまさら何を言ってるの、って。そして同情しますよね。このさき、苦労して働きつづけて子どもを何十年も育てなきゃいけないわけでしょう。病気とか受験とか反抗期とか就職とか、ようやく自分の人生でそういうことをやっと片づけたと思ったのに、あの人たちはまたおなじことをいちからやるんですよ。本当にもの好きっていうか、ご苦労なことなだなと。わたし本当にそう思う。」

 

離婚した女の友人が男性について主人公に語った言葉。

 

「男ってさ、(中略)手際も悪いし、基本、生活のことはろくにできないし、自分の生活が変わらない範囲でしか家のことも子どものこともやらないくせに、外では理解のある夫だか父親だかって、でかい顔してうっとりしてんの。あほかと。んで、突っ込まれるのに慣れてないから、何かひとこと言うだけで機嫌が悪くなって、そして自分の悪くなった機嫌は誰かが直すもんだと思ってる。それでこっちも苛々する。」

 

性的虐待を受けてきた女性が、子どもを産むことについて子どもを持ちたいと言う主人公に語った言葉。

 

「たぶん、人が生まれてくるってことは素晴らしいことだって信じているからだよね」

「もし、あなたが子どもを生んでね、その子どもが、生まれてきたことを心の底から後悔したとしたら、あなたはいったいどうするつもりなの」

「どうしてみんな、子どもを生むことができるんだろうって考えているだけなの。どうしてこんな暴力的なことを、みんな笑顔で続けることができるんだろうって。生まれてきたいなんて一度も思ったことない存在を、こんな途方もないことに、自分の思いだけで引きずりこむことができるのか、私はそれがわからないだけなんだよ」

 

(引用終わり)

 

すべて、それぞれの立場からの真実を語っているように私には読めました。

私は娘の出産後、この女性編集者が言っているようなことを身近な人に言われ心の中でこの人とは分かり合えないと決別しました。産後すぐで育児にヘロヘロになっていた私には許せない発言でしたが、今となっては出産に対してこういう風に感じている人も大勢いるんだろうなと冷静に思えます。

 

主人公自身も若い頃からセックスに違和感を感じていて、男性との関係がうまく築けないという悩みを抱えています。それでも、自分の子どもに会いたいという思いを抱く主人公はあがくのですが・・・この先は小説のネタバレになるので書かないでおきます。

 

多様性の時代と言われているように、出産することもしないことも、そしてその方法もそれぞれの個人がちゃんと考えてそうしたいと思ったならそれは尊重されるべきだと私は思っています。


そこは誰かが口出しすることでもないのですが、子育ては人手がいるのはまぎれもない事実です。

世の中の余裕がなくなってきて、苦しい立場の親が増え、そのしわ寄せが弱い立場である子どもにいくのはやはり許せないので、そこをどう守っていくかは社会の課題だと思います。そこを好きで産んだんだからすべて親だけで面倒みろと突き放したら不幸な人が増えるだけだと思うのです。

 

若い頃、お世話になる医者はたいてい年上でしたが50歳にもなると自分より若い医者や看護士にお世話になることが多いです。彼らから診察や医療行為を受けるたびに、誰かが育ててくれたから今私を診てくれているこの人がいるのだ、と見知らぬ誰かに感謝の気持ちを感じます。人間、この社会に生きていたら誰の世話にもならないということはあり得ないのです。社会で生きるということはそういうことだと思います。

 

「夏物語」は女の人生のほぼすべてが詰まっているのではないかと思うくらい濃厚な一冊でした。

この本をおすすめしてくれたりんごさんありがとうございました。夏物語が最高峰(他の作品あまりよんでいませんが💦)に私も一票です。