薄桜鬼小説【斉藤】パート2 | べちー子’s駄文保管庫

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徒然なるままに
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――花火大会の日

仲のいい友達はみんな花火大会に行ってしまったため、私は一人で家にいた。


千鶴「あーあ、今頃みんな楽しんでるかなぁ……」


ベッドに横になり、はぁーっと大きなため息をついた。
勉強しようと机にむかったけど全然頭に入ってこない。
机の上には開きっぱなしの参考書がそのままだ。


千鶴「やっぱり私も行けばよかったかなぁ……」


本を読んだり音楽を聴いたりして時間を潰してみたけどなんとなく落ち着かない。
花火大会に行かなかったことを激しく後悔した。


千鶴(気が滅入るなぁ……気分転換に外にでも出ようかな)


「よしっ本でも買いに行こう」決心して私はベッドから飛び起きた。


外に出ると空は夕焼け色に染まっていた。
本屋に向かう途中に浴衣姿の女の子と何回か擦れ違う。


千鶴「浴衣か……。いいなぁ…」


最後に浴衣を着たのはいつだっただろう。
父子家庭で育った私は着物はおろか浴衣も片手で数えるぐらいしか着た覚えがない。
いつも忙しそうにしているお父さんを見ると
自分の要望は我侭でしかないような気がして言えなかった。


千鶴「花火大会…行きたかったなぁ…」


擦れ違う女の子達の後ろ姿を見つめながら私はつぶやいた。
本屋に着くとまっすぐ新刊コーナーにむかった。
平置きしてある本の中から買い揃えている作家の文庫本が目にとまる。


千鶴「あっ!これもう3巻出てるんだ。2巻も一緒に買わなきゃ」


まわりを見ても平置きされた本の中には見当たらない。
きっと在庫本として棚に戻されたんだろうと私はそのまま店の奥に進み
本棚を目で追いながら2巻を探した。


千鶴「あった」


小さくつぶやいて本に手を伸ばした。

背表紙を持った瞬間……他の人の手が私の手にかぶさった。
驚いて反射的に手を払いのけてしまったものの、すぐに我に返りあわてて頭を下げた。

千鶴「す、すいません!」


驚いたとは言え失礼な態度をとってしまった。
頭の中でどうするべきか最善策を模索する。


「……雪村?」


聞き覚えのある声。
声の主を確認するまでもない。


千鶴「斎藤先…輩…」


顔を上げて一応確認してみた。やっぱり斎藤先輩だ。
部活以外ではあまり会いたくないのになんでこんな所でばったり会うんだろ


斎藤「あんたもこの本買うのか」


斎藤先輩の手には先ほど私が手を伸ばした文庫本があった。
私服姿の先輩は初めて見たけど今の私にはどうでもよかった。


斎藤「残念だが、1冊しかないようだ」


千鶴(はぁ…最悪だ……)


斎藤先輩はいつも無表情で何を考えているのかわからない。
話しかけても必要最低限のことしか言わないし端的に物をズバッというのも苦手だ。
まさに近寄りがたい存在。


斎藤「だからこれは……」


千鶴「あ、大丈夫です!私予約しますから!それは斎藤先輩がどうぞ!」


斎藤「お、おい……!」


この状況をなんとか打破するべく話を無理矢理切り上げ。
私はカウンターに小走りで向かった。


店員「この本予約殺到で入荷未定なんです。近隣の本屋にも在庫がないみたいで…」


店員が申し訳なさそうに私を見る。きっと今日の運勢は最悪なんだろう。
本屋に来なければよかった。


斉藤「雪村」


急に名前を呼ばれて勢いよく振り向いた。
いつのまにか斎藤先輩が後ろに立っていて思わず身構えてしまう。
先輩は先ほどの本を私の手に置いてまっすぐに私を見た。


斎藤「これは雪村が先に手に取った。だからあんたが買え」


そういうと斎藤先輩は出口に向かい歩き始めた。