②転職について

・転職すべきかどうか

 これははっきり言って人それぞれである。良い悪いは人それぞれだが、その評価項目となる要素を挙げるとすると、


 収入(転職後、将来性)

 ステータス・見栄

 労務環境と家族との関係

 仕事のやりがい

 ステップアップになるかどうか(必要なことを勉強できるか)



 というところだろうか。


 一昔前まで監査法人は、短期的には収入や労務環境という点では悪くなかったと思う。ただ、仕事のやりがいが分からなくなったり、クライアントサービスとしての矛盾に悩まされたり、仕事にも自分にも成長性が見出せない、など不満を持つ人は極めて多いのである。辞めてなくても、大いに不満を持っている人多数なのである。


 個人的には、監査法人とは教育機関・補修所の性質を濃厚に持っていると思っている。若いうちは、仕事の内容に対して過剰な給料をもらっているし、さらに勉強もさせてもらえる、中々良い教育機関だ。しかし、中堅になるにつれてバランスが取れるようになっていて、その余剰分を会社へ奉仕するような構造になっている。一部はパートナーになれるが、期待値としてはそう高いものではなかろう。


 このように監査法人を理解すると、期待値として、監査法人にとどまるという選択肢は魅力に乏しく感じる。あくまで期待値なので、飛びぬけて成功すれば監査法人にいても魅力度が突き抜けることもある。業界として、組織としてというややマクロ的な視点から競争分析すれば、魅力的な業界といえる材料は非常に少ない、ゆえに参入の魅力は高くないと結論付けられよう。


 なお、ここでは議論がややこしくなるため、資本市場対する責任や会計士としての職責などという高尚な点を捨象している。



・転職市場での競合

 先日、某監査法人が400人(最終的には600人とも700人ともいわれている)リストラがあった際に、転職市場に400人も殺到するから大変だ、的な議論があったが、それは現状を冷静に俯瞰すると安易な議論である。新日本が前年度に実施していたから、ということでもない。監査法人出身でイキのいい若手が好むような、金融関係やコンサルティング関係は、既に他業界とのバッティングが相当激しくなって干上がっているのだ。

 もちろん、監査法人出身者として優位性を築けるような仕事があればいいのだが、現実問題、それって結構少ないというのが実感である。よく言われる経理や税務だって、監査法人出身の会計士が即戦力で活躍できるかというと疑問である。では、会計士として優位性が築ける仕事ってなんだろうか?正直あまり思い浮かばない。

 だとすると、監査法人を卒業する会計士は、会計士としての優位性がさほど高く評価してくれないところに、他業界から来た優秀な人々と競合していくことになる。もちろん、例外もあるが、大部分はこう考えていいだろう。ポテンシャルやビジネスパーソンとしてどうゆう意識付けで仕事をしてきたのかが最も重要だと思う。


 アドバイスするとすれば、どこで何がしたいのかを良く考えながら、会計士とその業界外の人々に対してどう優位性を築いていくのかを明確に意識して勉強していって欲しい。漫然と、前期調書を繰り越す、上司の言うことに従ってレビューメモを潰す日々では、あとに何も残らないし、ましてや外から見たらそれは「退化」というものだ。下りのエスカレーターでスクワットしているような日々では、いつの間に下層に着いてつまずいてしまうことに例えられよう。


 水は低きに流れるが如し。社会は、自分という絶対的なモノサシではなく、世界との他人との相対的なモノサシで計られるのだ。